『星の林に月の船 声で楽しむ和歌・俳句』 大岡信(編)

 

万葉集の時代から現代に至るまでの和歌・俳句194編を収めた一冊。
タイトルの「星の林に月の船」は、柿本人麻呂の歌からとられたそうだ。
「天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」
幻想的なおとぎ話の一場面のよう、絵が浮かび上がってくるよう。時空を超えて現代にも通じるような、悠々としたロマンチック。これが万葉の時代によまれた歌なんだなあ、と驚いてしまった。


大体1ページに一首(一句)と、簡単な解説がついている。解説は、忠実な現代語訳よりも、もうちょっと自由におおらかに、歌のイメージや背景を感じられるように導いてくれる。
たとえば、万葉集から、笠女郎(かさのいらつめ)の歌。
「相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後(しりえ)に 額(ぬか)づくごとし」
この歌の解説の一部。
「……これは絶縁状です。恨みをよんでいながらどこか滑稽です」
と書かれていて、そうだったのか、と思う。
「餓鬼の後(しりえ)に……」のところ、見事な「あっかんべー」に思えて、ちょっと笑ってしまった。


梁塵秘抄』から取り上げられている歌は全部よかった。
「遊びをせんとて生まれけむ……」や、「舞へ舞へ蝸牛……」「居よ居よ蜻蛉よ……」などなど。梁塵秘抄は当時の歌謡曲風の今様と聞いた覚えがある。だから、これらの歌には、ほんとうは、隠れた別の意味もあるのかもしれないけれど、私はそのままに受け取り、思い浮かべるのは、走り、踊り、あるいはじっと集中して動かない、子どもたちの姿。楽しかった。


江戸時代の歌では、動物たちが出てくるものが心に残る。
「憂きことを海月(くらげ)に語る海鼠(なまこ)かな」(黒柳招波)
「春風や鼠のなめる墨田川」(小林一茶
などが好き。俳句をよんでいるのか、童謡を聞いているのか、と思いながら読んでいる。


編者大岡信による「まえがき」の結びの言葉
「詩歌を楽しむということは、ことばの世界への探検旅行である……」という言葉を読み、楽しい旅をありがとう、と思っている。


旅は、しみじみと楽しい思い出ばかりでは終わらない。
「廊下の奥に……」
明治以降の詩歌。渡辺白泉の句に、冷水をひっ被ったような気持ちになる。
「戦争が廊下の奥に立ってゐた」