『アナグマの森へ』 アンソニー・マゴーワン

 

『荒野にヒバリをさがして』のケニーとニッキー兄弟の数年前の出来事を描いた物語。
兄弟のお母さんが家出をしたあと、お父さんは一人で頑張ってきた。だけど、いまは、友人の犯罪に巻き込まれて保釈中。すっかり気力をなくしてしまって酒におぼれる日々を送っている。


物語は、近くの雑木林に、不良グループに誘いだされたニッキーとケニーが、穴からアナグマを追いだして犬と闘わせようとする残酷な遊びを無理やり手伝わされるところから始まる。
ニッキーの機転で、アナグマの母子を無傷で逃がすことに成功するが、後になって、取り残された赤ちゃんアナグマがいることを発見する。
ニッキーはケニーとともに、赤ちゃんアナグマを保護し、どうにか母アナグマのもとに戻そうとする。といっても、最初はそんな気持ちはなかった、というかどうしてよいかもわからなかった。だんだんとそのような方向に気持ちが傾いていく過程も、物語のなかでは地味だけれど興味深い。


アナグマの子のためのニッキーの試行錯誤のひとつひとつが少しずつ実を結んでいく過程は、ニッキーのお父さんが立ち直っていく過程に並行しているようだ。
アナグマの家族の再生が、ニッキーたち家族の再生の物語と響き合い、うれしい(両方の)家族の物語になっている。


『荒野にヒバリをさがして』の愛おしい犬ティナと、兄弟はこうして出会ったのだということも、この本で知ったし、家族の礎も、この物語で築かれたのだということも知った。


ニッキーたち兄弟をめぐる環境の素晴らしさ――生命溢れる森に、ため息が漏れる。だけど、ニッキーは、この豊かな環境にこれまで気づいていなかったのだ。
「今まで、こんないなかには、牧草地や畑くらいしかないと思っていた。でも、ぜんぜんそんなことはなかった。生まれてからずっとここに住んでいるというのに、今まで存在すら知らずにいたものたちが、たくさん見つかった」
気をつけて見なければ、見逃してしまう繊細で素晴らしいものたち、きっとわたしたちのまわりにもたくさんあるにちがいない。