8月の読書

8月の読書メーター
読んだ本の数:16
読んだページ数:4790

ヘルプ 下 心がつなぐストーリー (集英社文庫)ヘルプ 下 心がつなぐストーリー (集英社文庫)感想
この物語は、もしや黒人ヘルプたちを鏡にして、非黒人女性が自らを繋いでいた見えない鎖に気がつく物語ではないか。この町の人たちは、誰かを自分とは異質なものとして見えない鎖でしばっている。だけど、実は、その鎖がしばりつけていたのは、ほかならぬ自分自身だった。最後に聞こえたのは、その鎖を断ち切った音だったと思うのだ。
読了日:08月30日 著者:キャスリン・ストケット
ヘルプ 上 心がつなぐストーリー (集英社文庫)ヘルプ 上 心がつなぐストーリー (集英社文庫)感想
1960年代、人種分離政策のミシシッピ州ジャクソン。白人の家でヘルプ(家政婦)として働く二人の黒人女性と、政策に疑問を持つ一人の白人女性の、三人が語り手。差別の酷さにムカムカするが黒人ではない者にそれは到底理解しえないのだと繰り返し言われているようで情けない。それでも逞しいヘルプたちの語りに惹き付けられる。
読了日:08月29日 著者:キャスリン・ストケット
カリジェの世界―スイスの村の絵本作家カリジェの世界―スイスの村の絵本作家感想
この本(絵と文章と。カリジェと安野さんと)を読んでいると、小さな木霊が聞こえる。風が吹いてくる。私は、安野さんの案内でゆっくりとこの本を旅する。カリジェが描きだす子どもたちは特別な子どもたちではないし、描かれているのは、日常のなかの一コマだ。カリジェの絵は、ささやかな一コマをかけがえのない「お話」に変える。
読了日:08月27日 著者: 
パリのアパルトマン (集英社文庫)パリのアパルトマン (集英社文庫)感想
ダブルブッキングのパリで、それぞれの視点の物語が交互にいれかわる。「いいところ」で寸断されながら。ずんずんと読んでしまうが、読むほどに、事の残酷さ、背景の陰惨さに、苦いものがこみあげてくる。子どもたちの顔がそこここにちらついて。心に残る言葉「きみを解放したのはわたしだが、わたしを救ってくれたのはきみだった」
読了日:08月25日 著者:ギヨーム・ミュッソ
帰郷 (集英社文庫)帰郷 (集英社文庫)感想
戦争が終わって、あれは間違った戦いであった、と国は認めても、使い捨てられた兵士も、その家族も、生きたまま使い捨てられたままで、国は見て見ぬふりをして拾い上げようとはしなかった。それでも生きる。生きぬく事。明るいの暗いの、希望の、絶望の、と言ったら、口が曲がりそうなくらいの、生きることの凄味を感じる物語だった。
読了日:08月23日 著者:浅田 次郎
なっちゃんの なつ (かがくのとも絵本)なっちゃんの なつ (かがくのとも絵本)感想
獰猛なくらいに茂る草たちの匂い、汗ばんだ肌に草のさきっぽがちくちくする感触、川から渡ってくる風の涼しさも、みんな絵のなかから立ち上がってくる。この絵本に見いるわたしを夏の太陽の下へと、一瞬で運ぶ。
読了日:08月21日 著者:伊藤 比呂美
マンドレークの声マンドレークの声感想
童話作家杉みき子さんが、熱心なミステリ・ファンである事を初めて知った。書き下ろしを加えた11篇の創作童話を、ミステリ要素を拾いながら読んでいく楽しさ。これらの童話には(今まで考えてもみなかったけれど)ちらほらとミステリのかけらが散らばっている。それは物語の間に隠された、まるで子どものイタズラ跡のようだ。
読了日:08月20日 著者:杉みき子
詐欺師フェーリクス・クルルの告白(下) (光文社古典新訳文庫)詐欺師フェーリクス・クルルの告白(下) (光文社古典新訳文庫)感想
その身軽さ、口八兆、大胆さに、はらはらしたり、あきれたり、でも、ちょっと憎めないやつ、と思ってしまうあたり、ほらほら、いつのまにか、彼の話術に嵌っている。だけど、この身軽さは、ちょっと危うい。本当の彼はいったいどこにいるのか。この物語の先を読みたかったな。叶わないのが残念だ。
読了日:08月18日 著者:トーマス マン
詐欺師フェーリクス・クルルの告白〈上〉 (光文社古典新訳文庫)詐欺師フェーリクス・クルルの告白〈上〉 (光文社古典新訳文庫)感想
フェーリクス・クルル、コソ泥で詐欺師で、口から先に生まれかと思うほどに冗舌で、自信満々のうぬぼれや。彼の旅に同行するのはなんて楽しい。最後には、旅の途中で置いてきぼりを喰わされるってわかっていてもね。
読了日:08月17日 著者:トーマス マン
秘密の道をぬけて秘密の道をぬけて感想
南北戦争の10年ほど前の物語。黒人奴隷の逃亡を助ける地下組織があった。 わたしは、物語の中のふたりの少女に、「F」が、自由の「F」であると同時に友だちの「F」であることを、教えられた。ただの符号でしかなかった文字が、使う人によって、美しい意味をもち、光を放ち始める。
読了日:08月14日 著者:ロニー ショッター
希望の図書館 (ポプラせかいの文学)希望の図書館 (ポプラせかいの文学)感想
居場所「〈家〉とよべる場所」があるということは、そこに留まることもできるし、そこから外へと出ていくことも、戻ってくることも自由にできる、ということなのだ、とつくづく思う。少ししんどい場所にいくことにも、しんどい用をすますことにも、帰る場所があれば、きっと足を踏み出す勇気がわいてくる。それは、始まりの場所なのだ。
読了日:08月12日 著者:リサ クライン・ランサム
文学こそ最高の教養である (光文社新書)文学こそ最高の教養である (光文社新書)感想
長い時間のふるいにかけられながら残ってきた古典、一読してもなかなかその良さがわからないもの、何度も繰り返し読むことで理解が深まるものもあるのだろう。すぐにわからなくてもいい、まずは、その作品に私も出会ってみたい、と思う。そう思わせてくれたのも、励ましてくれたのも、この本のなかの翻訳者たちの言葉だった。
読了日:08月10日 著者:駒井稔,光文社古典新訳文庫編集部
ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 (角川文庫)ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 (角川文庫)感想
鮮やかに展開していく物語に何度も驚かされながら、一方で釈然としない気持ちが残る。それは、事件が終わってもなお、「罪に負けた」という犬養の思いへの共感でもある。ただ、犬養の娘、沙耶香の朗らかさが、心地よく胸に残る。病院のベッドを離れることが叶わない彼女の明るく輝く笑顔が、「とことんやったれ」という言葉が。
読了日:08月09日 著者:中山 七里
ギレアドギレアド感想
「家々の窓を覗き込み、人々の生活について思いをめぐらす」という言葉がでてきた。 彷徨い歩き、外から家々の窓を覗き込むしかなかった同士。外から中へ。たぶん、さまよってきた人々は(たとえそう見えないとしても)自分にとっての窓の内側を見つけたのだ。そういう思いが湧いてくる。静かに力強く。
読了日:08月07日 著者:マリリン・ロビンソン
エレベーターエレベーター感想
身体を切り刻まれるような悲しみや悔しさ、怒りは、形のないものになり膨れ上がる。その時、それを、何か(もっと単純な)形に変えたいと思うかもしれない。わかりやすい名を与えたいと思うかもしれない。たとえば復讐……物語は、そうした思いを受けとめながら、主人公を、読者をも、激しく揺さぶる。巻頭の言葉が心に残る。
読了日:08月04日 著者:ジェイソン・レナルズ
土の中の子供 (新潮文庫)土の中の子供 (新潮文庫)感想
『土の中の子供』『蜘蛛の声』二つの作品とも、荒々しいほどの力強さ、泥臭さだった。のほほんと歩いているこちらの腕をつかんで、ぐいぐいひっぱっていく。そうでもしなければ、こんな場所まで来なかっただろ、と言われているようなその場所で、読み終えて、ほうっと息をついている。
読了日:08月02日 著者:中村 文則

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