- 作者: マーギー・プロイス,金原瑞人
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/06/26
- メディア: ハードカバー
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ジョン万次郎の生涯をアメリカ人の作家が書いたと知り、この本に興味を持ちました。
日本人の、それも19世紀鎖国時代の風習、上下関係などがとても丁寧に描かれていましたが、
その一方で、日本人の習慣や考え方など、型にはまったような描写が気になったし、それは誤解じゃないかなと思うところもありました。
些細なことだけれど、この作品が素晴らしいだけにちょっと寂しく感じた。
それでも、マギー・プロイスの描き出したジョン万次郎(史実をもとに、作者の想像力を練り込んで作り上げた)はとても魅力的だった。
鎖国をしていた時代に(たとえ日本には帰れないという事情があったとしても)未知の世界に、たった一人で足を踏み出す若者のひたむきな憧れや勇気が眩しい。
人種差別の色濃い時代(まだ奴隷制度のあった時代)のアメリカで、当然受ける差別に苦しみながらも、
友人たちに恵まれ、仲間たちの信頼を得ることになる。
アメリカの地で、このたった一人の異民族の男は、いったい何者だっただろうか。
一方、万次郎をめぐるアメリカ人たちの囚われない自由な心が印象的です。
ことに、彼を養子に迎えることを決意したホイットフィールド船長と、そういう船長との結婚を承諾した夫人。
万次郎のために教会を何度も変わったくらいだから、並大抵のことではなかったはず。
友人たちとの様々なエピソードも、心温まる。
何度もいうけれど、人種差別の時代なのだ。
それでも、こういう開かれた心の人たちもちゃんと存在したのだ。アメリカの「自由」の懐の深さに驚いてしまう。
ジョン万次郎が、初めて世界地図に接したとき、地図を読むことを覚えたとき、
自分の狭さを知り、世界の広さ果てしなさに気がついたときの言葉が印象に残ります。
「地図は招待状のようです」
圧倒されて、怖れ、しり込みしてしまうこともありだろうに、万次郎は、この地図を招待状、という。
彼のその後の人生が開かれたことも、ふたつの故郷の懸け橋となったことも、この言葉に始まったのではないかな。
招待状。なんと素敵な言葉。
この本が、未知の世界に乗り出す子どもたちへの招待状になりますように。