物しか書けなかった物書き

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)


これは・・・ジャンルはなんだろう。これもミステリだろうか?
編者あとがきの「野球のピッチャーが投げる変化球に、ナックルボールと呼ばれる『魔球』があります」
との言葉に、ああ魔球、ああナックルボール、と納得します。まさにまさに。


主人公は食いつめたタクシー運転手、駆け出しのちんぴら、売れない物書きだったり・・・
彼らの間で何かが起こる。
どきどきしながら、必死で筋を追うけれど・・・あらぬ方向に肩すかしをくらう感じ。
そこかあ、と思うけれど、その着地点があまりに鮮やかで、見事で、やられたぁと、ただ拍手です。


なかには、ああ、これは、さっき読んだあれの類話かな、と思うこともあった。だけど、必ず予想は外れる。
14もある短編。それなのに一つも似た話がないのです。
法月綸太郎さんの巻末の解説では丁寧に、一作一作を解説してくれますが、
「いかにもこの作者らしい」「トゥーイーの面目躍如」「トゥーイー節全開」などという言葉が並びます。
そうなのだ。わかる。このクセは、この作者独自の世界なんだろうなあ、と思います。
だけど、トゥーイーらしい、の守備範囲はこんなに広いのだ。
まさにナックルボールで、どう変化するかわからないし、どこで脱力させられるかも謎なのです。


最初からいきなり度肝を抜かれるようなのもある。
夫が死んだ、という妻からの通報で駆け付けた警官が見たのは、ベッドに横たわるパジャマ姿の骸骨。
または、深夜、車で帰宅途中、うっかり(?)ゾンビにヒッチハイクされてしまった男。
さらには、四人も妻を事故(!)で失った男が五人目の妻を娶る。
こんな始まりの物語はどう展開してどこに着地するのでしょうね。


いっぺんに読むと毒気にあてられそう。
ちびりちびりと読むのが楽しい、ナックルボールのミステリ集です。