- 作者: 寺田寅彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/04/16
- メディア: 文庫
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これも、『「絵のある」岩波文庫への招待』に紹介されていた本です。
物理学者寺田寅彦さん筆の挿し絵入りの随筆集とのことで、興味を持ったのです。
本当に味のある絵。
思いのほか上手でびっくり(失礼ですね^^)したのですが、
それ以上に、素人らしさ、素朴さが、ゆったりとした可笑しみ、生活のゆとりなどを感じさせてくれるのです。
文章にぴったり。
この本は、俳句雑誌の毎号の巻頭ページに載せた短文をまとめたものだそうです。
寺田寅彦が、物理学者であると同時に俳人でもある、ということを初めて知りました。
絵とともに嬉しい発見でした。
身の回りの自然や人々の不思議をキャッチするアンテナの感度のよさに驚きます。
自然、といってもほんとに身の回り、身近なあれこれ、
人々、と言っても、家族や近しい知人たち。
観察眼が鋭い、それは確かにそうなのですが、
同時に、ありゆるものをありのままに肯定的に受け止めるゆとり、ぬくもりがあるのです。
あまりに当たり前で、つい見逃してしまうあれこれのこと、寺田寅彦さんの言葉で、
はっとして、ああ、私の周りにこんなにたくさんの感動があったのか、と驚かされます。
そして、一方で、「鳥のガラス教育」のようなどきっとするような一文も。
ゆったりとした素朴な文章は、こんな炯眼に裏打ちされているのです。
この文章が書かれてから80年も後に、
わたしたちは遅まきながら「見えないガラス」の存在にやっと気がつき始めたのでした。
鼻っ柱を折られて。
寺田寅彦さんは科学者なのだろうか、詩人なのだろうか、とどうにもわからなくなります。
いや、間違いなく両方なのだ、と何度もうなずいています。
詩人であり科学者であることが、一人の人間の中で当たり前に同居すると、こんな文章が生まれるのか、と、
わたしはただぬくぬくと味わっているのです。
ゆっくりと何度でも味わいたい短文集です。