夏の終わりに

夏の終わりに夏の終わりに
ロザムンド・ピルチャー
浅見淳子 訳
青山出版社


ロマンチックな夢物語のようでした。舞台から人物まで。
物語の楽しみのひとつが、現実を忘れることだとしたら、そして、夢の世界にいざなわれることだとしたら、
この物語がきっとかなえてくれるかもしれません。
・・・ごめんなさい。わたしは、大照れで、完全に乗り遅れてしまいました。
と、言いながら、たぶん、またこの人の本は読みたくなるだろうなあ、と予感しています。
ストーリーじゃなくて、なんというか、この本にこもる雰囲気に惹かれるのです。
物語の舞台を、作者は本当に愛しているんだろうなあ、と感じさせてくれるのがうれしいです。


主人公は古風なお嬢さん。
控えめで、自分のために生きることよりも、自分を必要とする人のために尽くすことに生きがいを感じる人。
最初は、そんな彼女のことをもどかしいように感じていたのですが、それは見かけだけ。
その芯の強さや、地に足のついたしっかりした物の考え方は、素敵だなとおもいました。


好きなのは、物語よりも、美しい風景描写です。
冒頭のカリフォルニアの海辺・・・
夏の終り、人々が去っていく、少し物悲しさを伴う夕暮れの雰囲気も、
エルヴィー荘のあるスコットランドの田舎の芳しい空気も、大好きです。
そして、住まいの調度や庭などの描写の細かさを読んでいると、家庭的な、ほっとしたくつろぎ感に満たされていくのを感じます。
(部屋を片付けて、もうちょっと居心地よくしたいな、と思い始めます)
「どんなところに住み、どんな本を読み、どんな絵を飾っているのか知るまでは、その人をほんとうに知ることにはならない」
との言葉に、なるほどね、と思ったのでした。