生半可な学者 柴田元幸 白水Uブックス |
「ところで、英語教師なんかやっていると余計なことが気になって仕方なことがあるのだが、King Kongのkをpに入れ替えればping pongとなる。つまり卓球、ピンポンである。そして、ping pongが「ピンポン」なら、King Kongは「キンコン」ではないだろうか?」
読んでて、思わず吹き出してしまった。
初めて柴田元幸さんのエッセイを読みましたが、なんだ、こんなに面白い人だったんだ〜。
この本を書かれた当時柴田さんは30代。若いなあ〜。
あとがきによれば、大半は雑誌『テレビコスモス』に「時事英語」というタイトルで、88年6月から91年10月まで連載したものだそう。
「内容的には時事英語にはあまり関係ない。時事には全然関係ないし、下手をすると英語にもあまり関係ない」
と書かれていますが、そんなことはありません。
(時事はともかく)英語や翻訳の話など、
さらには、日本語の表現法、不思議な和製英語、文化比較、辞書の話、文学論(?)など、おもしろかったです。
『私の青空』の歌詞の一フレーズ「せまいながらも楽しい我が家」。
原詩の言葉cozy roomのcozyを「せまいながらも」と訳した名訳の「も」という助詞に着目して、
ひらがな一字にこもる日本的、アメリカ的の意識や文化比較など、なるほど〜、と思いました。
言葉の使い方など、ちっとも気をつけたことはなかったけれど、気がつかないままに、ニュアンスとして受け取るイメージは大きかった。
映画『お茶漬けの味』の英語字幕もまた。そして、この映画は日本人の夫婦だからこそ成り立つ映画なのだ、という話も。
伝えたいイメージを間違いなく伝えて、そのうえで名訳であるかどうか、が問題になってくる。
笑わせながら、軽い読み物を装いながら、、こういう話をなさる。
翻訳者の言葉に対する敏感さ、鋭さに、脱帽してしまいます。
学生の試験答案(短編小説の感想文)の、文章の結び方の頻度ベスト3と、それに対する鋭い指摘に、ひえーと青ざめました。
だって・・・このベスト3、わたしも相当の頻度で、感想文書きに使ってるよ。
これらの言葉を削除したら、文章じゃなくなっちゃうくらい。なんちゅうことだ。冷や汗です。
反省をこめて誓おう。以下三つの言葉はこれからは使わないっと。
1.「・・・と考えるのは私だけだろうか」
2.「・・・であることを教えられたような気がする」
3.「・・・なものだとつくづく考えさせられた」
リチャード・パワーズ「舞踏会へ向かう三人の農夫」、スチュアート・ダイベック「右翼手の死」ぜひ読みたい。