リボン

リボン (teens’ best selections)リボン (teens’ best selections)
草野たき
ポプラ社
★★★★


タイトルの「リボン」は、制服の襟元につけるリボンタイのこと。
卒業式に憧れの先輩のリボンをもらうのが下級生の慣わし。ところが、亜樹は、池橋先輩に、なぜかリボンをもらえなかった。
そのときの情景がひとつの課題のように胸にひっかかっている。そして、亜樹はいよいよ三年生になる。
家庭でも学校でも、亜樹は、強く自分を主張したり、はっきり物を言うことはよくないことだ、と思って、波風立てずにやってきた。
だけど、ほんとうにそれでよかったのだろうか。これからもこういう感じでいくのだろうか。


亜樹の中学三年生の一年間の歩みを卒業まで描きます。
中学三年生。
まだまだ子どもの部分が多々ある彼女たち。
それぞれに挑戦したいこと、なりたい自分があり、憧れを持って中学生になったのはつい昨日のよう。でもあっというまに最終学年。
自分のこれまでの歩みを振り返ってみるころ。集大成のころ。
受験進学を目前にして、将来のこと、進路のことも真剣に考えなければならないころ。
憧れだったあれこれは、どうなっただろうか。二年たって、どのように達成できたんだろうか。
二年前に描いたなりたい自分に、なれているのだろうか。
そして、この先、何を基準に進学を考えたらいいのだろうか。高校で何ができるのだろうか。将来何をしたいのだろうか・・・


周りを見回せば、さまざまな生徒たちの群像。
波風たてないことで対応してきたはずなのに、いつのまにか取り残されていく。
四月、「(女子たちの)小さなグループの入り口に、じわじわとかぎがかかり始めている」という言葉がでてきました。
教室の息苦しい空気を感じてしまう。
いじめについても、
「ちゃんと歩道を歩いていても、交通事故にあってしまうようなもので、さけようがない」という言葉は、中学生にとっては実感かもしれない。


思春期特有の対人関係のきしみなど・・・亜樹にとっては、「いじめられた」というわけではないのに、こんなに傷ついていく。
なんだかわからないもやもやしたもの、いらいらしたり、嫌な気持ちも、よく考えてみたら、原因は自分のなかにあったりもした。
他人をつい責めたくなってしまうのだけど。
だれかに話すことで何かが変わるわけではないけれど、話したことで、聞いてくれただれかが鏡のように自分の言葉を跳ね返してくれたら、
そこから自分を振り返り内省することもできる。
亜樹の瑞々しくやわらかい心がまぶしい。自分のいたらなさに気がつけたら、自分をより高く引き上げることもできるのだから。


亜樹は自分の性格のあいまいさを振り返り、嫌だな、と感じているけれど、
でも、黒白はっきり決められることって、本当はすごく少ないんじゃないだろうか。
場合によっては「あいまい」って悪いことじゃないと思う。
なかなかはっきりしないから、そのはっきりしないところで、たくさん考える余地があるのだから。
それから、亜樹の母親を見る目の冷静さ、確かな分析力にどきっとする。
ひとりの母親として、見られたくないものを見られたようで、正直嫌なのだけれど、
同時に、中学生、ここまで考えられるようになっていたのか、とその成長を喜んだり寂しく思ったりもしています。
ああ、もう子どもじゃないんだ・・・


まわりで、次々進路を決めていく友人たち。遠い将来に夢を馳せ、着実に進んでいく友人たち。
そんな姿を見ていたら、やっぱり「あせるな」というほうが無理だと思う。


そんなときに佐々木君の言葉がある。「
おとなになってからの時間のほうが長いからこそ、将来なんて、ゆっくり考えればいいじゃん」
どれも正しい。歩き方は人それぞれ。
・・・だから学校はいいね、と思います。
しんどくてたまらないこともいっぱいあるけど、こんなきらっとする言葉にも会えるんだから。
つらいことといっしょに大きな喜びもあるのだから。
さまざまな個性をもったたくさんの同級生がいるのだから。


そして、迎える卒業式。少女たちの胸のリボンが清清しい。
一年前、先輩たちを見送ったあの日から、あきらかに成長した亜樹がそこにいる。
まちがいなんてない、そのままそのまま、柔らかな心のまま、あっちにつまずき、こっちでころび、ときには立ち止まってしゃがみこみ・・・
そうやって、少しずつ歩いていけばいいい。


この本は「進研ゼミ」の中三受験講座「中3チャレンジ組」に連載されたものだそうです。
だから、でしょうか。
物語はそのまま等身大の中三生たちへのエールになっているのでした。