オオバンクラブの無法者 (アーサー・ランサム全集 (5)) アーサー・ランサム 岩田欣三 訳 岩波書店 ★★★★ |
再読。
バラブル夫人の招きで、カラム姉弟は、夏休みをノーフォークのスクーナー船ティーゼル号で過ごすことになります。場所はノーフォーク湖沼地方の(航行可能な)河の上です。
ここで二人は、オオバンクラブの子どもたちと知り合います。リーダー的存在のトム・ダッジョンと双子の女の子ポートとスターボード。それから「死と栄光」号の三人組ジョーとビルとテッド。
そしてトムとふたごの指導のもと、ヨットの帆走を覚え、彼らは、ノーフォークの川を回る旅に出ます。美しい湖沼地方。追いかけてくるのは快速艇マーゴレッタ号のならずもの。ある事件をきっかけにトムをうらむ彼らは、執拗に追いかけてきます。
この三人の悪役は、悪役らしく、ひねくれもので、やることは乱暴で、ポパイのブルートが三つに別れたような感じ。・・・ということは短気で、執念深く、馬鹿力の持ち主(?)ではあるがどうにも間抜け。押してだめなら叩き割れ、って感じでしょうか。おかげで、子どもたちに、出し抜かれっぱなしなのです。
見所は、迫り来るならずものたちをどのようにして出し抜き、ひたすら逃げるか、逃げつつ楽しむか、ってところ。
おもしろいのはおもしろいのですが・・・三巻「ヤマネコ号」にも通じるのですが、これは、ごっこ遊びではなくて、彼らにとって現実なのだ、ということです。間抜けだろうがなんだろうが、まわりじゅうから眉をしかめられるようなならずものがいて、それが執拗に追いかけてくる。はらはらします。彼らにとっては本物の冒険なのです。ここには想像力は入ってこないのです。入ってくる余裕がないのです。
海賊もいなければ、カンチェンジェンガもなし。北極も白熊もいないし、もちろん、周りにいる人々は土人でもエスキモーでもないのです。
ドロシアは想像力があるのですが、ツバメ・アマゾンの想像力とはちょっとちがいますよね。彼女はロマンチストです。ツバメ・アマゾンが現実的な力を持ち、その上で、思い切り想像力を働かせるのとは違って、ドロシアのは、想像力が先にあるのです。それは現実とは全然別の場所に夢の世界を思い描いている感じでしょうか。
今まで、そんなこと考えなかったのですが、今回、はじめてそんなふうに感じ、おもしろいなあ、と思いました。一言で想像力といっても(例えばティティとドロシアを比べても)こんなにいろいろな世界があるんですよね。
登場する子どもたち・・・性格が今ひとつ掴めなくて、思い入れができなかったのが、ふたごのポートとスターボード。あれだけ活躍するのに、彼らの個性がイマイチ見えてこないのがさびしいです。ふたりがどんな子なのか、操船していないときはどんなふうなのか、知りたいな。
トムは、ジョン・ウォーカーを思い出します。帆船への愛も、責任感も。
ベストキャラクターはバラブル夫人の愛犬ウォルター。主人達を喜ばせようが、窮地に陥らせようが、何かみつけたらとりあえず吠える!
そうそう、ここにきてふと思ったこと。いつもどこにいても牛乳を取りにいくこどもたち。牛乳って大切なのですよね。