サクランボたちの幸せの丘
アストリッド・リンドグレーン
石井登志子 訳
徳間書店
★★★★
サクランボと呼ばれる双子の少女バーブロとシャスティン〈16歳)は、最初町に住んでいましたが、定年退職(なんと50歳が定年ですって)した軍人の父さんが、祖先から続くリルハムラ農場を引き継ぐことになり、田舎に引っ越します。
リルハムラでの日々は、経済的には苦しいのですが、家族も、農場の人たちも力を合わせて働く、生きる喜びに満ち満ちていました。
やかまし村のリーサが大きくなって帰ってきたみたい!と思いながら読んでいました。そうしたら、訳者あとがきにも、
>やかまし村の女の子たちが16歳になった時のお話を読むような気がします
と書いてありました。あらら、それ、私の読書日記に書こうと思ったのに、先を越されました。残念。
でもね、バーブロが語り手となって一人称で書かれたこの本は、ほんとうにやかまし村とだぶるのですよ。
夏の農場の躍動感に満ち満ちているのです。
やかまし村の子どもたちはただひたすらに遊びまくっていましたが、
それよりも少し大きくなった16歳の少女たちは学校を辞めて、働きます。乳絞りのやり方を習い、荷馬車を駆ってミルクを運びます。雑草を抜き、家畜の世話をします。いっぱしの農場の働き手です。
それぞれにボーイフレンドができたり、若い友情を育んだり、おろかな後悔をしたりします。
そして彼らの生活に彩りを添える夏至祭りやザリガニ採りパーティー、ピクニック。
ほがらかな父さんと聡明なかあさん。ほら、やかまし村です。
そして、『遊んで、遊んで、遊びました〜リンドグレーンからの贈りもの〜」を読んだあとでは、やかまし村の向こうに、ちゃんと若い日のリンドグレーンの姿が見えるのです。
思いっきり楽しみ、思いっきり働く農場の夏の輝かしさ。人生の夏の輝かしさ。まぶしくきらきらとした若者たちの日々に、せつないような郷愁を感じてしまいます。
いろいろなことを経験してほがらかに乗り越えて、大人になっていく子どもたち。人生を迎える準備の日々をこんなにも輝かしく描くリンドグレーン、
違うお話なのに、やはり、その後のリーサたちの生活も喜びに彩られた素晴らしい日々が続いているのだと信じられて、幸福を分けてもらったような気がしました。
できれば冬のリルハムラの暮らしも読んでみたいけれど、もうかなわないのですね。
清楚で美しいクリスマス。雪の中での冬仕事、それからおなじみのメンバーが集まってそり遊びや、夏に釣りを楽しんだ湖でのスケート・・・目に見えるようですもの、想像で楽しむことにします。きっと丘の上では楽しい暮らしが続いているに違いないと。