『ヘルプ(上下)』 キャスリン・ストケット

 

ヘルプ 上 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

ヘルプ 上 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

 

 

ヘルプ 下 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

ヘルプ 下 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

 

 

1960年〜64年。人種分離政策をとるミシシッピ州の町ジャクソン。
ヘルプとは、白人家庭で働く黒人メイドたちのことだが、そのヘルプたちのあまりに酷い待遇に憤然としてしまう。
あからさまな差別と侮蔑にさらされ、彼女たち(と、その家族)の一日一日、一分一分は、耐えがたいほどの屈辱的な時間ではないか。
それと同時に、南部の小さな町の黒人でないものに、彼女たちを到底理解することはできないのだ、と繰り返し言われているようでもあり、自分が情けなくなるのだ。


この物語の語り手は三人。
ひとりは、人種分離政策に疑問を持つ(むしろ嫌悪する)白人女性スキーター。
作家志望の彼女は、本を書くために、この町でヘルプとして働く黒人女性たちの声を、ひそかに集めている。
時々、スキーターがあまりに天然で無神経に思えて(この町では、奇特なくらいに公平な白人女性であるというのに)読んでいるわたしは、彼女とともに恥じ入ってしまう。どんなに相手に寄り添おうとしても、事あるごとに自分が外側の人間にすぎないことを自覚させられてしまう。
でも、彼女は、(南部の多くの富裕な白人家庭の子どもたちと同様)母親代わりの黒人ヘルプに大切に育てられたのだ。育ててくれたコンスタンティンを今でも、彼女は懐かしく思っている。


二人目は、黒人ヘルプのエイビリーン。
この町では、汚い、無教養と、意味もなく蔑まれる黒人たちだけれど、高い教養を持った黒人たちはたくさんいる。彼女もその一人で、優れた書き手でもあるのだ。
エイビリーンは50代で、ヘルプとして、これまで17人の白いベビーを育ててきた。
今は、親から育児放棄に近い扱いを受けているベビー、メイ・モブリンの世話をしている。母親がなんといおうと自分自身を大切に思うことを決して忘れないように、との願いをこめて。
スキーターを育てた人も、こんな女性だったのだろう、こんなふうにスターキーを慈しんでいたのだろう。今はここにいないコンスタンティンとエイビリーンが重なる。


三人目は、やはり黒人ヘルプのミニー。料理上手だけれど、かっとなりやすく、正直な気持ちを口に出したために職を失うこと十数回、というつわものだ。
エイビリーンの親友で、互いに気に掛け、支え合っている。


奴隷制度は、はるか昔に終わったはずなのに、ここの黒人たちは、まだ足かせをつけられているのではないか、と思うような、そんな町だ。
白人と黒人だけではない。
男と女。親と子。富者と貧者。強者と弱者。
あちこちで大小の差別が起こり、その都度、思う。人種分離政策--分離などと言う法をもつ社会では、ありとあらゆるものを分離しないではいられないのだろう。


今、思うのは、この物語は、もしや黒人ヘルプたちを鏡にして、非黒人女性が自らを繋いでいた見えない鎖に気がつく物語ではないか、ということだ。(作者が、黒人ヘルプに育てられた白人であることを踏まえて。スキーターと作者を重ねてもいて)
この町の人たちは、差別し、分断し、誰かを自分とは異質なものとして、見えない鎖でしばっているように見える。
だけど、実は、その鎖がしばりつけていたのは、ほかならぬ自分自身だった。気がついていても、気がつかなくても。
最後に聞こえたのは、その鎖を断ち切った音だったと思うのだ。