『あ、はるだね』 ジェリー・フォリアーノ(文) エリン・E・ステッド(絵) 金原瑞人(訳)

 

あ、はるだね (講談社の翻訳絵本)

あ、はるだね (講談社の翻訳絵本)

 

 

犬を連れた男の子が、広い野原を見まわしている。
「ちゃいろ。
 ここも あそこも みんな ちゃいろだ」
春の始まりなのだね、きっと。
男の子は、春が始まったのに気がついて外に出てきたのだろう。
見渡す限りの茶色の地面は、わたしには気持ちがいい。
先日『種をまく人』を読んだせいもあって、「こんなにたくさんの種まく場所!」と思った。
実際、男の子は茶色の土に種を植え始める。
一週間、一週間、また一週間。男の子は待っている。芽がでるのを。地面が茶色から緑に変わる時を。
鳥や熊がやってくることを心配したり、雨が降らないかな、と空をあおいだり……
待ち遠しい緑の春。


地面の上はずっと変わらず茶色のままだけれど、少しずつ春は進んでいる。
最初、男の子は、毛糸の帽子と手袋をして現れたけれど、だんだん薄着になってきている。
半そでの男の子が、地面に耳をぴったりつけて、
「ちゃいろは、
 まだ ちゃいろだけど、
 みどりっぽく なって きてた。
 みみを すませて、
 みみを じめんに あてて、
 めを つむると わかる」
という。
私はここが好きだ。耳から、地面の下から、みどりっぽくなってきたことが伝わってくるなんて、いいな。
毎日毎日、待ちわびていた彼だから感じる、土の下から伝わってくる、みどりっぽさ。
息をつめて、男の子の耳になって、緑を感じよう。


そうして、ある日突然、緑は一斉に広がるのだ。
何かがはじけるみたいに。
絵本の見開きいっぱいのみどりを思い切り吸い込む。
ほんとに、いい匂いがしてくるみたい。