任務ちゅうにヘマをやらかして懸賞金付きで負われる身となったCIAのスパイ、レディング(愛称フォーチュン)は、ほとぼりが冷めるまで身元を隠して、ルイジアナの田舎町シンフルで静かに暮らすことを命じられるのだが、シンフルに到着するや否や殺人事件に巻き込まれて…というのが、前作『ワニの町へ来たスパイ』 だった。
シンフルが「静かな」田舎町ではないことは、よくわかった。
そして、静かではないのは、たぶんにこの町を牛耳るシンフル・レディス・ソサエティ(地元婦人会)のせいであり、もっといえば、この会の会長アイダ・ベルとナンバーツーのガーティのせいである。いやいや、何しろ、この町、女たちが(それも人生後半戦の)が元気良すぎ!
フォーチュンは、彼女たちのペースにすっかり乗せられてしまった。腕っこきのスパイフォーチュンであるけれど、社会生活ではまるっきり初心者で、海千山千のおばあちゃんたち(最高のコンビ!)との噛み合っているんだか噛み合っていないんだかわからない会話には、笑って笑って、笑い崩れた。
(そのため、公共の乗り物の中、病院の待合室、あるいは飲食店で、この本を読むことはわたしには無理だった。いつ、どこで、どの壺で、笑いの発作に襲われるかわからないので)
前作の事件が無事(???)解決したあと、静かに暮らそう、と思っていたフォーチュンだけれど、そうは問屋が卸さなかった。殺人事件が起こる。
事件当日、フォーチュンが被害者と大喧嘩をしているところを、大勢の人たちが見ていた。
しかも、ここは、住民すべてが知り合い、という小さな小さな田舎町である。人びとの願いとしては、犯人はよそ者であってほしいのだ。
フォーチュンは、自分の潔白をただちに証明しなければ逮捕される。逮捕される、ということは、ばれて欲しくない場所に身元がばれる、ということなのだ。
フォーチュンを助けるべく、動きだした友人たちが素敵すぎて、おかしすぎて、……そして、なんて温かいんだ。
スパイ、という言葉に籠る冷たくて硬質なイメージが隅っこのほうからじわじわと溶けていくようで、そうなると、フォーチュンの隠しているモノが寂しくなってくる。
ああ、まだ二巻目だよ。シンフルに到着して、まだ一か月もたっていないじゃないか。
帰れなくなるよ、フォーチュン、もとの生活に。(帰ってほしくない読者がここにひとり。巻を追うごとにこの町の住民たちがどんどん好きになっていくし、そのなかに、ずっと彼女にいてほしい)
アイダ・ベルとガーティが見かけどおりのおばあちゃんじゃないことは一巻目でわかった。
しかし、この町の女たち・・・みんな只者じゃない。○○や××が、フォーチュン(の元の顔)と共通点がありそうな…という話に、どきっとする。まさか村をあげてみんなその道の何かだったとか…って話ではないよね。