『ワニの町へ来たスパイ』 ジャナ・デリオン

ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)

ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)


CIAの工作員レディング(愛称フォーチュン)が、つい(!)殺してしまったその男は、武器商人の元締めの弟だった。
そのために、CIA二年分の工作が一分でぶち壊しになる、という新記録を樹立し、彼女自身は懸賞金付きで追われる身となった。
ちょうど良い塩梅に、彼女の上官の姪サンディ・スーは、大叔母の遺産を受け継いだばかり。フォーチュンは、サンディ・スーになりすまして、ルイジアナの(さも退屈そうな)田舎町シンフルで、ほとぼりがさめるまで静かに暮らすことを命じられる。それが、与えられた新しいミッションであった。


さぞや退屈な日々が待っているであろう、と覚悟して、フォーチュンは、シンフルにやってくる。
出会ったのは、馬に乗った化石のような保安官と、やたら反則切符を切りたがる保安官助手。
そして、キリストより年上であることは間違いない、おばあちゃんたち。
ほらほら、やっぱり、と思ったら大間違い。このおばあちゃんたちが・・・ただものではないのだ。
この町を牛耳るのは、町の婦人会シンフル・レディース・ソサエティ。その創設メンバーの生き残り(?)アイダ・ベルとガーティのコンビときたら・・・彼女達の会話・行状に、何度ふきだしたことか。吹き出すごとにどんどん彼女達が好きになり、あっという間に大ファンになってしまう。
そして、なんて爽快な気分にしてくれるのだろう。


目立たないように、おとなしく暮らさなければならないフォーチュンなど、あっというまに、彼女たちのペースに巻き込まれ(たぶん、喜んで巻き込まれたんだと思う)なんなの、いつのまにか良いチームじゃないの。


フォーチュンが、ここで目だないように暮らすことが難しくなったのは、家の庭で、愛犬(?)が人骨を咥えているのを彼女がみつけたせいだ。
それは、五年前に失踪した町の嫌われ者ハーヴィの骨であった。
では、その犯人は? どうやら、問題は犯人さがしではないらしい。
元気な老婦人たちは、なにか隠している様子・・・


小さな町である。
いろいろ胡散臭いこともあるけれど、決して憎めない、と思うのは、登場人物たちそれぞれが、それぞれのやり方で全力で何かを守ろうとしているから。
そのせいでことが複雑になっちゃうことがもしもあったとしても、それがなんだというのだろう。
「こんな友達がいたら、小国だって制圧できる」とフォーチュンは言う。納得である。


この物語、シリーズの第一作だそうだ。
ということは、この先、また、素敵なレディたちに会える、ということなのだ。
楽しみなシリーズの幕開けが嬉しくて仕方ない。