『クララ』 エミリー・アーノルド・マッカリーノ

クララ

クララ

  • 作者: エミリー・アーノルド・マッカリー,安東由紀,よしいかずみ
  • 出版社/メーカー: ビーエル出版
  • 発売日: 2017/01/20
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ずっと前に『サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く』という奇妙な本を読んだ。
18世紀のヨーロッパを、一頭のサイがオランダ人船長に連れられて旅をしていくのだ。各地で人びとの話題を浚いながら。
サイの名はクララ。クララを迎える人々の熱狂ぶりと、クララの飄々と醒めた姿の対比が、妙におかしくて、笑いながら読んでいたのだ。
同時に、見世物にされた珍しい動物のノンフィクションを面白おかしく読んでしまう自分のことを後ろめたくも思っていた。


だから、この絵本は、ぜひ読みたい絵本だった。
たった40ページほどのこの絵本には、200ページ以上ある上記の本には書かれなかったもの(私の知りたかったこと)が書かれている。何よりも絵で。
それはクララの豊かな表情だ。
好奇心旺盛で、目に見えるもの、自分の置かれた状況を、面白がって眺めている様子。
人懐こく、誰にでも愛嬌を振りまいていた。クララのそばにいる人は(船長でも船員でも、だれであれ)クララの長い舌で顔じゅうを舐められていた。子犬のようなクララ。
インド(船長はインドの友人の家でクララに出会った)からヨーロッパに向かう船の上で、船長がクララ(まだ少し小さかった)の肩を抱いて、二人よりそって夕陽を見ている絵がある。後ろ姿だ。
クララの背中が語っているような気がする。「相棒・・・」って。この絵がとても好きだ。


絵本の巻末の作者の言葉には、以下のことが書かれている。
クララは、船長に見出されたとき、すでに母親を殺されて二年が過ぎていたこと、人間のペットとなっていて野生では生きられない状態だったこと。
クララが生きた時代は、人間がサイとの正しいかかわり方をする以前であったこと、その時代なりではあるが、クララは船長によって大切に世話をされ、かわいがられていたこと。


クララはヨーロッパを旅して、各地の王侯や貴族に謁見した。公園や広場で、クララを見ようと、たくさんの人々が行列を作った。
ご婦人たちの間では、サイの角を模した髪型が流行った。最新式の船はクララにちなんで「サイ号」と名づけられた。
クララはヨーロッパを旅しながら17年生きたという。
クララ、日々は楽しかったかな。まあまあ面白かったよ、と言ってくれるかな。
いいや、ともかく最後の最後まで全力で生き切っただけだよ、と言うかもしれないね。
この絵本でクララに再会できてよかった。最高にチャーミングな女の子に描かれているクララに。