『運のいい日』 バリー・ライガ

運のいい日 (創元推理文庫)

運のいい日 (創元推理文庫)


これは「さよならシリアルキラー」三部作の前日譚にあたる短編集だ。
「さよならシリアルキラー」は、連続殺人犯の息子であるジャズ少年が、父からほどこされた“英才教育”を生かして連続殺人事件の捜査に活躍するという設定の青春ミステリとのことだ。


父を二年前に逮捕され、小さな町では知らない人はいない、という高校生ジャズことジャスパー。
ジャスパーの唯一の友人であるハウイーは、ひょろりとした長身の持ち主であるが、重い血友病を患っている。
コニーは、ジャスパーの恋人。白人ばかりの町に引っ越してきたアフリカ系の女の子。
三人とも、この狭い社会の中で、「ハミダシ者」だ。人が見ないふりをして通り過ぎるくらいに、目立つ存在なのだ。
そして、目立つがゆえに、彼らには、それ以外の面があることを忘れられる存在でもある。


最初の三つの短編は、三人それぞれを主人公にした物語。
ミステリではない。(あてにしたら肩すかしを食う^^)
それぞれがそれぞれの中に隠し持って居るナイーブな部分が、そろりと顔をのぞかせる物語、と思う。
好きで目立つわけではない。しかし、目だってしまうことも、やるせない自分自身の一部ではある。ちらっと見せる一瞬の素顔が印象的だ。
彼らがそろって活躍する物語を読めたら、それがミステリであったら、さぞや楽しいだろう。


四つ目の最後の中編は、先の三篇より、さらに数年前にさかのぼる。
この町の保安官G・ウィリアムがジャスパーの父ビリーを逮捕するまでを描いている。
すでに読者には、犯人がわかっている。保安官がいつどのようにしてそれに気がつくかが問題なのだ。
主人公の保安官は、愛しい妻をなくしたばかり。精神的に最悪のコンデションというのに、次期保安官選挙を控え、快調な対抗馬に押されっぱなしだ。
殺人犯を逮捕しないかぎりどんでん返しは望めない、という状況は、結果をあらかじめ知らされていてもかなりハラハラさせられる。


三部作の本編を読んだことのない私には、この短編集は、登場人物たちのていねいな自己紹介の挨拶のようだ。
でも、私にはジャスパーと父との関係が未だにぴんとこない。
感情を表に出さないジャズの気持ちは、この本だけの付き合いでは、読み取れないことが多い。
ことに最後の場面の彼が何を考えていたのか、何を知って何をしようとしていたのか・・・本編を読めば、わかるようになるのかなあ。