8月の読書

2015年8月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2205ページ

夜が来ると夜が来ると感想
なぜそそれを手放すか、なぜそれ以上追及しないのか、とイライラしながら、記憶も気力も曖昧、散漫になっていく老女の心情が、こちらの気力をも削りとっていくようだ。片や捕獲者、片や獲物、という関係なのに、ひらりと現れる不思議な愛情や煌めきのようなものが心に残る。虎って何だったのだろう。目に見えないのに、この存在感。不気味で恐ろしく美しい。惹きつけられる。
読了日:8月29日 著者:フィオナマクファーレン,FionaMcFarlane
アンドルーのひみつきちアンドルーのひみつきち感想
アンドルーの作品を、じっくりと細部を眺めたい。ひとつ仕組みがわかるたびに、ほおっと感心し、うれしくなる。ミステリの謎解きに似ている。自分の好きなこと・得意なことを役に立つことに繋げられたら、幸福だと思うけれど、あのわけのわからない発明品たち、秘密基地たちのわくわくに比べたら…。ちょっとだけつまらない。もったない。ような気がする。
読了日:8月27日 著者:ドリス・バーン
自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心感想
自分たち一部の人にだけ通ずる感覚や価値観を気がつかないまま付加して、物事を判断していた。そのために苦しんで生きている人たちがいた。「もし自閉症が治る薬が開発されたとしても、僕はこのままの自分を選ぶかも知れない」と言える「僕」のような人たちが自分を失うことなく生きていけるように、どんな「僕」も尊重されるように。この本は素晴らしい贈り物だった。
読了日:8月26日 著者:東田直樹
藩校早春賦 (集英社文庫)藩校早春賦 (集英社文庫)感想
三人の親友同士は、最下級武士の子と家格の高い家の子。このことを再三にわたり特筆するほどに、武家社会が厳しい格差社会であることを意識させられる。真正直で不器用な三人の子どもたちを陰日向から見守り、期待を寄せる数少ない大人たちの存在もまた、この社会では、ちょっとしたハミダシ者かもしれない。類は友を呼ぶ。類たちが爽やかな風を呼んでいる。大きく育て、風。
読了日:8月23日 著者:宮本昌孝
恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)恋と夏 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)感想
人びとの口数は少なく、痛みも、寄り添う思いも、ほとんど、心にしまい込まれたまま。伝わろうと、伝わらなかろうが、そこにあること、これからもあり続けることが愛おしい。一つの恋が、そういうことに気付かせる。様々な理由で今もなお血を流す場所も、時間とともに、あるいは、人との寄り添い合いや離れによって、いつか、地図上の小さな点となるように、と願いをこめる。
読了日:8月22日 著者:ウィリアムトレヴァー
スクープ (エクス・リブリス・クラシックス)スクープ (エクス・リブリス・クラシックス)感想
スクープが先なのか、事件が先なのか、賢いのは誰で、踊らされているのは誰か。タナボタをしっかり頂戴しているのは誰か。新聞の力? あまりに滅茶苦茶な話がまかり通る最近の世の中、それに比べたら、この程度の皮肉はかわいいものかも。損な役回りの人がいて、なんともお気の毒ではあるが、最後には、それぞれのブートたちがみな満足して、あるべき場所にいられて、よかった。
読了日:8月18日 著者:イーヴリン・ウォー
いのちの時間―いのちの大切さをわかちあうためにいのちの時間―いのちの大切さをわかちあうために感想
(再読) 始まりがあっておわりがある。そのあいだに満ちているいのちの時間。かけがえのない一回きりのいのちの時間。シンプルな言葉の繰り返しの中から、湧き上がってくる「生きる」ことへのおごそかで明るい思い。自分の命に忠実でありたいと思う。誰にも等しく約束された、おわりの瞬間まで。
読了日:8月15日 著者:ブライアンメロニー
絵本 彼岸花はきつねのかんざし絵本 彼岸花はきつねのかんざし感想
静かな詩のような文章と絵が結び合って、物語の情景を豊かに語る。荒々しい言葉や表現に頼ることなく、大切なものをそっと差し出してくれる美しい反戦の絵本。美しい文章だから、誰かに読み聞かせたくなる。読み聞かせてもらった誰かが、いつか、図書館とか本屋さんの棚で、いつか読んでもらった絵本が字の本になっているのをみつけて驚く。そんな光景が見えるような気がする。
読了日:8月12日 著者:朽木祥
八月の光・あとかた (小学館文庫)八月の光・あとかた (小学館文庫)感想
ほんとうは言葉になんかできない、感想を書くことが申し訳ないような気がしてしまう。この本のなかの人たちと私とが繋がるのは「死にたくない」という思いなのではないか、と感じた。あの日の朝、だれも死にたくなかった。死にたくなかったはずの人の無念さ、大切な人を死なせてしまった苦しみを想像する。こんな朝がこないようにと、今、ただ祈るだけではきっとだめなんだ。
読了日:8月11日 著者:朽木祥
子供時代 (新潮クレスト・ブックス)子供時代 (新潮クレスト・ブックス)感想
「味気ない「日常性」を突き抜け永遠の「聖性」と「祝祭性」をまとって光り輝いている」訳者あとがきのこの言葉に深く頷く。物語は祝福され、読者も間接的に祝福を受ける。あっという間に忘れてしまっても不思議はないのに、忘れたくない、ただ黙ってポケットに入れて歩きたい宝物。物語はきっとソーネチカやダニエル・シュタインの背中につながっている。
読了日:8月5日 著者:リュドミラウリツカヤ
タチ―はるかなるモンゴルをめざして (評論社の児童図書館・文学の部屋)タチ―はるかなるモンゴルをめざして (評論社の児童図書館・文学の部屋)感想
二人の子どもたちの素直さ、けなげさに、複雑な思い。一番大切なものを彼らの言い分一切聞かずとりあげておいて、その大切なものを少しでも良い状態に保つために協力すべきである、と追い詰められているようだ。学者たちの思惑も、子どもたちの思いも、飛び越して、まっすぐに駆ける馬たちの走りが清々しい。駆け抜けていけ、捕まるな、とひたすらに思いを寄せる。
読了日:8月3日 著者:ジェイムズ・オールドリッジ

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