8月の読書

8月の読書メーター
読んだ本の数:24
読んだページ数:6110

鏡の花 (集英社文庫)鏡の花 (集英社文庫)感想
どんな出来事に遭遇しても、この人ならやはり、こんなふうに考えるだろう、こんなふうに行動するだろう。何がおきてもおきなくても、変わりないのは、その人がその人である、ということだ。その人がかけがえのない一人だということだ。信頼できない風景の中で、信頼できるものが立っている。そういうことが私には大切に思えた。
読了日:08月30日 著者:道尾 秀介
新編 宮沢賢治詩集 (角川文庫)新編 宮沢賢治詩集 (角川文庫)感想
重苦しいはずなのに、なぜこんなにも静かに澄んで美しいのか。連想するのは水の流れ。森の樹のなかを流れる澄んだ水、空の銀河(にも流れているはず)の輝く水だ。静かな所で、流れていく水……それは、どうすることもできない、苦い別れを耐えながら生きてきたひとが感じる静謐さ、透明感からの連想だろうか。
読了日:08月29日 著者: 
【旧版】深夜特急5 ートルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫)【旧版】深夜特急5 ートルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫)感想
「何を経験しても新鮮で、どんな些細なことでも心を震わせていた時期はすでに終わっていたのだ。そのかわりに、辿ってきた土地の記憶だけが鮮明になってくる」「旅の青年期」の話は読んでいても楽しかった。どれもこれも新鮮だった。そして今。祭りの賑わいは落ち着いてきたけれど、その分、心に残る内省的な言葉が増えている。
読了日:08月27日 著者:沢木 耕太郎
バスにのってバスにのって感想
そうだよね。空は広いし、ときどきは風もそよっと吹くよね。思うようにならないことは、長い目でみれば、たいていは大したことじゃない……と、思うよ。たぶん。トントンパットン トンパットン トントンパットン トンパットンいい感じ。のんびりいきましょう。
読了日:08月26日 著者:荒井 良二
台湾海峡一九四九台湾海峡一九四九感想
人間がもてるかぎりの残虐さを「戦争」という建前のもと思い切り解放したら何が起こるか。もう留まる所なんてどこにもない。「どの国家に属そうが誰を裏切ろうが……すべての、時代に踏みにじられ、汚され、傷つけられた人たちを、私の兄弟、姉妹と呼ぶことは、何一つ間違ってないんじゃないかしら?」という著者の言葉を噛みしめる。
読了日:08月25日 著者:龍 應台
ゴリランとわたしゴリランとわたし感想
……それでも、ゴリランとヨンナが引き離されそうになれば、読者としてはこんなに辛いし、良識の人にもっともなことを言われてもあなたにこの二人の暮らしの何がわかる、と反発したくなる。滅茶苦茶だけれど読者をそんな気持ちにさせるようなものがゴリランとヨンナの暮らしにはある。良識なんてとんでいく。(いや、それはやはり)
読了日:08月24日 著者:フリーダ・ニルソン
村上康成のイラストエッセイ 水ぎわの珍プレー村上康成のイラストエッセイ 水ぎわの珍プレー感想
釣りの話を読むのって、どうしてこんなに楽しいのだろう。川も湖も海も……およその水場が、人の生活圏から距離をおいた解放感だろうか。釣り人の喜びが、こちらに伝わってくるせいだろうか。各章ごとのカラーイラストが美しい絵本のようだ。生きものたちは、時にひょうきんそうで、とぼけているで、自然の中の哲学者のようにも見える。
読了日:08月23日 著者:村上 康成
死の猟犬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)死の猟犬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
霊媒が出てくる。幽霊屋敷が出てくる。予言もあるし、憑依もあるし、逃れられない運命もあった。だから、どんな不思議が起こってもおかしくないのだ、と読んでいれば、まんまとひっかかったわ、種も仕掛けもあったのだわ、というのもあるから、油断はできないのである。どちらかといえば、たねもしかけもあるほうが、私は好みだった。
読了日:08月21日 著者:アガサ・クリスティー
八月の髪かざり八月の髪かざり感想
久江さんの人形作りの過程と、広島に原爆を落とされた日、その後の日々の記憶とが、被さるように語られる。人形作りの工程は、まるで手の中の小さなものに命を吹き込んでいく過程のよう。亡くなった人を悼むこと。亡くなった人の記憶を呼び戻すこと。久江さんの手許を見守っているのは、きっと読者のわたしだけではない。  
読了日:08月20日 著者:那須 正幹
すてきなひとりぼっちすてきなひとりぼっち感想
少し前に読んだ、なかがわちひろさんの『すてきなひとりぼっち』は、子どもだから見つけられたものがたくさんあったから、ひとりぼっちというのは別の何かを迎え入れる入れ物と思った。今、大人のひとりぼっちは、入れ物の中身を徐々に整理し清々しいくらいにからっぽにしていくことのように思う。入れ物ではなくそれはきっと自分自身。
読了日:08月19日 著者: 
ブリキの太鼓(集英社文庫) 全3冊セットブリキの太鼓(集英社文庫) 全3冊セット感想
社会の動きに無関心なオスカルの目を通して当時のドイツに暮らす人々の群像が暗がりに浮かび上がる。印象的なのはごく普通の人たちが抱く暗い狂気のようなものを嗅ぎだすオスカルの鼻のよさ。隠しておくべきものが明るいところに引きずり出される。その間を縫ってオスカルは躍る。この鬼子はいったいどこから生まれてきたのだろう。
読了日:08月18日 著者: 
【旧版】深夜特急4 ーシルクロード (新潮文庫)【旧版】深夜特急4 ーシルクロード (新潮文庫)感想
乗り合わせたそれぞれのバスの個性的(よく言えば)なこと。パキスタンでは爆弾男と間違えられたり、アフガニスタンでは客引き。想定外の体験が面白いが、つんのめるように前へ前へと進む著者は、かなり疲れていたのかもしれない。アフガニスタンの風景のすばらしさが印象に残る。
読了日:08月16日 著者:沢木 耕太郎
短編少女 (集英社文庫)短編少女 (集英社文庫)感想
少女の日々はいずれ終わる。最後に『イエスタデイズ』でここまでに登場した九つの短編の少女(少年も)ともに大人になったようで微笑んでしまう。『短編少年』『短編少女』二冊続けて読んだ。九編づつの短編。『少女』はその内六編が恋愛がらみ(+恋愛前夜と思われる一編)『少年』のほうは、恋が描かれているのはただ一編だけだった。
読了日:08月15日 著者:三浦 しをん,荻原 浩,中田 永一,加藤 千恵,橋本 紡,島本 理生,村山 由佳,道尾 秀介,中島 京子
短編少年 (集英社文庫)短編少年 (集英社文庫)感想
小学生から高校生まで、少年をテーマにした短編を集めたアンソロジー。最後の『跳ぶ少年』に、このアンソロジーに現れた子どもたちみんなの顔が目に浮かぶようだ。美しく軽やかに跳ぶ少年の姿が、最後に現れたことが嬉しかった。みんな跳べ。高く跳べ。跳んで、飛び立て。
読了日:08月14日 著者:伊坂 幸太郎,あさの あつこ,佐川 光晴,朝井 リョウ,柳 広司,奥田 英朗,山崎 ナオコーラ,小川 糸,石田 衣良
動物園の麒麟―リンゲルナッツ抄 (クラテール叢書)動物園の麒麟―リンゲルナッツ抄 (クラテール叢書)感想
そう、倒れて死んだ廃馬は(もう)辛くもみじめでもない。浴槽は、たぶん自分が「お風呂じゃないよ」というならもちろんお風呂であるはずない。『名誉心』は皮肉たっぷりだ、と思うけれど、そこに湛えられた悲しいような美しさに惹きつけられずにはいられない。世界が傾いたような(傾いた世界が正常な位置に戻ったような)詩集。
読了日:08月13日 著者:ヨアヒム・リンゲルナッツ
きゅっきゅっきゅっ―くつくつあるけのほん3 (福音館 あかちゃんの絵本)きゅっきゅっきゅっ―くつくつあるけのほん3 (福音館 あかちゃんの絵本)感想
次々にスープをこぼすぬいぐるみたちをぼうやは「きゅっきゅっきゅっ」とタオルで拭いてあげるのだけれど、実は坊や自身もこぼしているのがかわいい。お母さんにいつもしてもらっているように他の子たちにもしてあげているのだね。坊やのふっくりしたからだも、ころんとした手足も、しぐさの一生懸命ぶりも、かわいいったらない。
読了日:08月11日 著者:林 明子
【旧版】深夜特急3 ーインド・ネパール (新潮文庫)【旧版】深夜特急3 ーインド・ネパール (新潮文庫)感想
インドは動いている。得体のしれない大きなエネルギーを感じる。ぼうっとしているとこちらのエネルギーまで吸いとられてしまいそうなほど。長旅の疲れだろうか。あるいは毒気にあたったのか。高熱で倒れ込むように到着したデリー。「デリーからロンドンまで乗り合いバスで旅する」という当初の目的の出発地点だ。
読了日:08月10日 著者:沢木 耕太郎
ゴルフ場殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)ゴルフ場殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
ジロー刑事のような嫌な奴は、我らが名探偵と真逆の道を行き、こてんぱんにやりこめられることになっているので、登場の場面から、勝手に哀愁を感じてしまう。また身軽で冒険心に満ちた娘は名探偵を喰ってしまっているのではないだろうか。人が三人も殺される物語なのに、あと味のよいこと。わたしも言いたい。「ちくしょう」
読了日:08月09日 著者:アガサ クリスティー
遠く不思議な夏遠く不思議な夏感想
夏ごとに「わたし」が体験するのは、現実のすぐ隣にあるような、ないような、ちょっと不思議な出来事は、子どものときにしか出会えないものらしい。でも、子どもにしか見えないものがあったように、大人にしか見えないものも、この村にはあったのだ。 私は、大人にしか見えないものの方が、本当はこわい。
読了日:08月08日 著者:斉藤 洋
【旧版】深夜特急2 ー マレー半島・シンガポール (新潮文庫)【旧版】深夜特急2 ー マレー半島・シンガポール (新潮文庫)感想
とにもかくにも到着したシンガポールで、次はいよいよインド、デリーに向けて一直線!というわけではなさそうだ。おもしろかったのがペナンの安宿。思いがけず長逗留してしまったのは、宿の売春婦たちやそのヒモ男たちとの交流が楽しかったからでもある。ついには支配人に「ここで働かないか」ともちかけられるほどに。
読了日:08月07日 著者:沢木 耕太郎
雨降る森の犬 (集英社文庫)雨降る森の犬 (集英社文庫)感想
もしかしたら、過去も未来もない「今」だけがあるこの群れは、シェルターのようなものかもしれない。傷ついた人間たちが逃げ込める場所。やがて立ち向かわなければならない世界へいずれ出ていくために人知れず力を蓄える場所。森の中を犬がかけてくる足音を聞いている。シャワーのようなその音を。
読了日:08月05日 著者:馳 星周
ルーパートのいた夏 (児童書)ルーパートのいた夏 (児童書)感想
少年少女たちはどんどん大きくなる。目覚ましい成長を頼もしく愉快に思いつつ、その過程で失ったたくさんのものの取り返しのつかなさがつらい。そして、成長して大人になることができなかった者たちのことが。最後の舞台はコーンウォールだ。子どもたちの懐かしいコーンウォールは変わらない姿のままで、誰を迎えたのだろうか。
読了日:08月04日 著者:ヒラリー・マッカイ
ノーザン・ライツノーザン・ライツ感想
孤独な人々がぽつぽつと固まっているけれど、孤立しているわけではない。人が同族に差し出す手は、きこちなくて、危なっかしくて、温かい。無線は、辛い知らせをもたらしたけれど、一つの塊ともう一つの塊との間に渡された糸のようなものでもある。小さな孤独たちの間に、目に見えないはずの糸がきらめくように渡っている。
読了日:08月03日 著者:ハワード・ノーマン
すてきなひとりぼっちすてきなひとりぼっち感想
ひとりぼっちだから見えるものがある。聞こえるものがある。出会えるものがある。ひとりぼっちじゃなかったら出会えなかったかもしれないものはいろいろある。こんなふうにも言えるかな。ひとりぼっちっていうのは別の何かを迎え入れる空間。さて。うーんと伸びをして、きもちいいひとりぼっちを胸に吸い込もう。
読了日:08月01日 著者:なかがわちひろ

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