『見習い物語(上下)』 レオン・ガーフィールド

見習い物語〈上〉 (岩波少年文庫)

見習い物語〈上〉 (岩波少年文庫)


点灯夫、産婆、葬儀屋、靴屋、流しの時計売り、質屋に本屋・・・たまに怪しいのもあるけれど、いろいろな職業が軒を並べる18世紀ロンドンの下町。
徒弟制度のもと、親方の下で見習いとして働く若者たちの12の物語です。
しかし、徒弟とは名ばかり。見習いは、朝から晩までひたすらこきつかわれるし、七年の見習い期間が終わっても決して明るい未来が待っているわけではないのだ。
子どもを大切にする時代じゃなかったそうだ。


けれども、痛ましいお話ではない。涙を誘うようなお話ではない。
物語の中の見習いたちは、たくましい。
賢いの、まじめなの、お人よし、怠け者、ずるいやつや血の気の多いのや、見栄っ張り・・・それぞれの器量で、精いっぱい生きているのだ。
けなげなのもいるけれど、時には、人をだましたり利用したり、憎んだり、張り合ったりもする。そのために起こる事件も彼らの運命(?)も、こじゃれたユーモアと温かいタッチで描き出されると、いつのまにか笑みが浮かんでくる。憎めない憎めない。
憎めないどころか、彼らの中に眠っているもっと別のものが浮き彫りのように見えてくる。
親の後ろ盾もなく、百戦錬磨の大人の中でただ一人、人生を始めなければならない子どもたちへのおおらかな応援歌のような物語なのです。
第一話『点灯夫』から、小さな明るい灯が生まれ、それが、無数の光となって、続く各物語へと飛び散っていく。そして、物語の中の見習いたちを照らします。
この光は、きっと彼らの行く末のどこまでも、ふわふわとつかず離れずついていくにちがいない。希望という名前に変わって。


どの見習いたちの物語も楽しかったけれど、
『バレンタイン』の「よくなってくる」話にくすくす。墓の下の死者たちも、びっくりして飛び起きそう。
『トム・ティトマーシュの悪魔』では、火の場面に茫然。
『鏡よ、鏡』『きたないやつ』『敵』など、「違う」ものが露わになる瞬間が、心にのこる。