オリーヴ・キタリッジの生活

オリーヴ・キタリッジの生活オリーヴ・キタリッジの生活
エリザベス・ストラウト
小川高義 訳
早川書房


架空の町クロズビーを舞台にした連作短編集。
タイトルはオリーヴ・キタリッジの生活、ですが、すべての短編の主人公がオリーヴ・キタリッジではないばかりでなく、
作品によっては、オリーヴはほんの通行人(?)程度のチョイ役でしかないのです。
だけど、この本を一冊読み終えるころには、
(実際とっつきにくい女性だと思ったし、周囲のほとんどの人たちから疎ましがられていた)この女性が
自分によく似た親友のように思えてきます。


どの物語も、どこの町でもきっと起こっているだろう、と思うようなことが起きています。
とりたてて珍しいことではないような凡庸な事件が起こる。あるいは何も起こってさえいないのかもしれない。
人々は静かに昨日も今日も生きている。そして死んでいく。
波風立てるようなことは何もない。だけど、他人にはわからなくても、どの人の人生にも、深い悩みや苦しみがある。
そのひとつひとつが決して他人事ではないと思う。
だって、あまりにどこでも起こりそうなことだから。


そんなあれこれの事件や、あれこれの人々の顔の間に顔を出すオリーヴもまた、ひょうひょうとした顔をしながら、
実はものすごくジタバタしながら生きている人だった。
彼女の「じたばた」を見ていると不思議におだやかな勇気をもらえるような気がする。
なんなんだろう。
ハタ迷惑で不器用なあがきがちょっとユーモラスでかわいいと思えること。
それから、寒々とした孤独のなかにとり残されているように見える時でさえ、
落ちるところまで落ちたところでふと感じる安らぎや、ほっと射してくる光などが、明るいなあと感じられること。
そうかそうか、そんなに落ち込むこともないか。まだここでこうやって生きていられるんだから。
だったらもうちょっとこのままやってみようかな、とそう思えるような。


どれも好きだけれど、『薬局』『チューリップ』『旅のバスケット』『川』が特に印象に残ります。
本当は辛い事態のはずだったり、気がつかなければ平和でいられたかもしれないことに気がついてしまったりするのですが、
むしろ、そのせいで、腹がすわる、というか、気持ちが上向く、というか、ふっと持ち上げられたように感じるのがいいです。
この世を去るにはあまりに未練がありすぎ、と思うに足る人生です。この期に及んでもなお。