ギフト(西のはての年代記1)

ギフト (西のはての年代記 (1))ギフト (西のはての年代記 (1))
アーシュラ・K・ル=グウィン
谷垣 暁美 訳
河出書房新社


代々、「ギフト」と呼ばれる能力を受け継ぎ、その力を要にして領地を取りまとめていく一族が、点々と住む高地地方。
それぞれの家系の異なる力うを武器にして、互いをけん制したり、助けあったりしながら、微妙な力関係を維持している地方。
主人公のオレックは、「もどし」と呼ばれるギフトを持つ家系の嫡子ですが、
父に期待されながらも、なかなか「ギフト」の開花がみられない。
父を敬愛しつつも、その期待の重荷と、あせり、不安、そして、わだかまる静かな反抗心を重ねてもいる。
やがて、さまざまな状況から、オレックの能力はどうも自分では制御できない「荒ぶるギフト」というものではないか、
との懸念が生まれます。
身近な人を知らずに傷つけることを恐れ、自ら望み、父によって、目隠しし、力を封印してもらいます。


この閉じられた雰囲気。
ファンタジー作品ではありますが、かなり地味で、華々しい場面はほとんどありません。
オレックの独白中心に進む物語であり、彼の内面世界での葛藤の物語です。


いったいギフトとはなんだろう。オレックが封印(目隠し)したものはなんだったのだろう。
オレックは、いつの時代の、どこにでもいる若者たちの姿に、重なるのです。
だれもが持っているかもしれない何かの天分、持っているつもりだけれど自信がなかったり、期待されすぎて重荷になったり、
自分の思いがけない感情にびっくりしたりとまどったりしている若者たちのことを思っています。


目隠しして閉じこもることは後ろ向きで、停滞・・・だろうか。
そうかもしれないけど、そうとばかりはいえないようです。
決して無駄な時間ではない、もしかしたら、つらいけれども、あってよかった、そんな時間かもしれないのです。
閉じこもることで充分に内省し、見えないことで、ほかの方向に向かって目が開くこともあるのだと・・・
もしかしたら、開かせたい、と思っていた天分ではなくて、別の天分が静かに人知れず、花開いていくことがあるのかもしれない。


オレックの物語のたくみさ・・・
オレックに物語を与えたのは、低地から来た(ギフトを持たない)母メルです。
メルは、文字を持たない高地の一族に、読むことと書くことをもたらし、本をもたらし、
幼い息子にたくさんの物語を注ぎ込んだのでした。
物語の明るさ、広さに、陶然となります。
この一族に代々伝わってきたギフトが、おもに広い戸外でふるわれ、力強いものであるのに対し、
物語は静かで地味であるはずなのに、なんてなんて明るく、大きいんだろう。
そして、火も明かりもないのに、人をぬくめていく。


わたしは、メルが好き。
ゲド戦記」のテナーに似ているような気がします。
どちらの女性も意志が強く逞しいです。厳しい道を勇気を持って、朗らかに歩いていきます。後ろを振り返りません。
過剰に女を意識させないし、女であることを武器にすることはないのに、とっても美しく気品に満ちています。
ル=グウィン自身がそういう人なのかな。


女といえば、グライもそんな感じの素敵な女の子でした。グライのギフトに対する考え方が好きです。
オレックが、父と息子の関係で苦しんでいたように、
グライも、母が娘に求めるものにこたえられずに考えに考えて、彼女なりに出した結論がそれなのでしょう。
でも、グライの求めるものは、今はここでは難しい。ずっと遠く、旅をしなければならないかもしれません・・・


奥深い物語です。意味深長な言葉がちりばめられています。
この先、この物語はどこへ向かうのか、楽しみな旅が始まりました。