ブルーバック

ブルーバックブルーバック
ティム・ウィントン
小竹由美子 訳
さ・え・ら書房
★★★★


オーストラリア、ロングボード入り江に二人だけで暮らすドラ・ジャクソンとその息子エイベル。エイベルが2歳のとき、真珠とりをしていた父親がイタチザメに殺されてから、母ドラは何もかもをひとりでやってきた。
ジャクソン一族は100年前からここに住み、海とともに生きてきた。
美しい海。その描写の素晴らしさにため息が出る。
ブルーバックというのは、エイベルが生まれるずっと前からこの海に住む巨大なベラ科の魚につけた名前。エイベルは、ブルーバックとたわむれるように海に抱かれ、大きくなる。
海が人間から奪い、人間が海から奪い、ことに人間の貪欲さに、エイベル親子は悩まされ、苦しめられる。
エイベルは、海の秘密をわかりたいと強く望むようになる。
やがて、エイベルは、町の学校、大学に進学し、海洋学者になる・・・

ドラとエイベル母子の関係が好きです。
エイベルが子供のころには、自然のふところのなか、まるで海版「センス・オブ・ワンダー」か、と思うよう。二人でボートを海に出し、潜る・・・一つ一つの場面、そして彼らが出会うもの一つ一つがとても印象的でした。
息子が大きくなるにつれ、ドラは、うしろにさがっていく。お互いに一番大切なものも目指すものもそっくり同じであることをよく知っていながら、自分と同じ生き方を相手に求めることはない。ただ自分の道を一人進む、まっすぐに。
化粧もせず、まだらに日に焼け、機械油にまみれたドラという女性にとても魅力を感じました。

タイトルになっている青い巨大魚ブルーバックは、ジャクソン親子が海に託す「思い」の象徴のようです。
これは、母親ドラの生涯の物語だったか、と思います。海を愛し、海を守ることに生涯を賭けた女性の。
そして、エイベルの物語。母の意志を継ぎ、でも、母とは違う方法で、彼もまた海に生涯を賭ける。

二つの世代と、彼らが連なる海に生きる人間たちを見守り続ける大きな魚のイメージのなんと美しく印象的なことか。
海への狂おしいほどの憧れが、どのページからもあふれてきます。
自然を守る・・・でも、それは決して口で言うほどやさしいことではありません。
自然から奪われ、奪い、それでもともに生きる。愛する、という言葉が邪魔なくらいに深く繋がり、ともにある。
いえ、そんな気持ちさえ傲慢なのかもしれない。
ドラは言います。
  >あたしたちは海からきたんだ。
   海があたしたちの故郷なんだよ・・・

海は、そんなに簡単に秘密をあかしてはくれない。でも、いつの日か、わかる日が来るかもしれないのです。
だから、そのままの姿で、そこにいてほしい。わたしのように海から遠く隔たったところにいる人間が「海を守る」というのは、そういう願いから始まるような気がします・・・

それにしても、なんと美しい本だったでしょう。
この夏の課題図書とのこと。この本をたくさんの子供たちが読んでくれますように。