旅する絵描き―パリからの手紙 伊勢英子 平凡社 ★★★ |
絵本「絵描き」と「ルリユールおじさん」が、この小さな本で繋がった――
絵を描きながら旅する「ぼく」は、パリの街に2週間以上滞在することになります。
それは時代から取り残されたような小さな路地の奥の、小さな窓に目を留めたところから始まるのです。
>窓越しに見えたのは、いや見えたのではない。ぼくを呼びとめ、足を止めさせたのは、
窓ガラスの向こうの本だった。
これがパリのルリユールとの出会いでした。
「ぼく」(伊勢英子本人)はパリのアパルトマンから友人Yに手紙を書き綴ります。
ルリユールおじさんとの邂逅、見事な職人芸、そして、彼の、「老人」という言葉からは程遠いエネルギッシュで社会的な活動の数々。若い才能への深い理解・・・
「ぼく」の部屋の窓から見えるアカシアの木への思い。
町のあちこちにひっそりとさりげなく飾られる国宝級の名画、幾多の画家たちの思い出を抱いたパリ・・・
職人への憧れ・・・伊勢英子さんのこの本もあの絵本も「画家」という言葉を使いません。「絵描き」・・・それはより「職人」に近い言葉のように感じるのです。
絵本「絵描き」を読んだとき、その「絵描き」という言葉に謙遜を感じたけれど、そうではなかった。
一流の職人は一流の芸術家とは別の意味で、やはり超一流です。畏敬に値します。伊勢英子さんはそのような世界を目指しているように思うのです。
そうそう、ルリユールおじさんのアパルトマンのおうちがとっても魅力的なのですよ。
>狭い螺旋階段を昇ると居間があり、
どの壁も天井まで本でいっぱいの棚になっていて図書館みたいだった。
何百冊あるかわからないけど、すべて革張りで深紅や紺の表紙、金箔の背の文字――
気が遠くなりそうなほど美しい本棚だった。
そして、本の中にふんだんに挟み込まれた伊勢さんの美しいスケッチや素描の数々・・・じっくりと味わいつつページをめくりたくなるのでした。