雲のてんらん会

新装版 雲のてんらん会 (講談社の創作絵本)

新装版 雲のてんらん会 (講談社の創作絵本)


空の一部を切り取ってそのまま額縁に入れたような「雲のてんらん会」。
ひとつひとつの絵に冠された言葉(タイトル)も素晴らしいのです。
「空のカーテン」 明ける空のなんともいえない色彩。するするとあがる極上のカーテン。
「空のかいだん」 空の高みに続くこの雲でできた段々を昇っていくのは天使でしょうか、小鳥でしょうか。
「白い海」 乳色の光の海です。この海に浮かんでひるねしたい。
「空の牧場」 羊(雲)の群れの中に犬が混ざっています。作者の飼い犬が空に上った後、空の牧羊犬になったのでしょうか。
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作者の繊細でのびやかな画筆が捉えた雲の表情は、赤、黄、緑、青、ピンク、オレンジ・・・さまざまな色を含みながら、本という額縁を越えて広がっています。
ここにはドラマがあります。
それは、観る人ひとりひとりにとって、それからそのときの気持ちによって違ってくるはずのドラマ。
soranohikidasi
この絵本が描かれたちょうど同じ頃に書かれたエッセイ集「空のひきだし」を読むと、いせひでこさんが、どんな思いでこれらの雲たちをみつめていたのか、ちょっとわかるような気がします。
天国に昇った父(人と話すより犬と話すほうがすきで、旅人で、絵描きで、なまけもので、老人で、病人で、少年だった)への思い、愛犬への思い、こどもたちのこと…かみ合わない日常のいらだち…
様々な思いを吸い取って広がる雲の展覧会。

時には、ゆっくりと空を見よう。雲を追いかけよう。そうして、伊勢英子さんや、同じように空を眺める会ったこともない人たちと心通わせ、無言の会話を楽しみたい。