『幽霊の恋人たち――サマーズ・エンド―― 』 アン・ローレンス 

夏のおわりにやってきた旅人が、一冬を宿屋で働きながら過ごす。
彼、レイノルズさんの部屋は、納屋の二階で、それまでこの宿屋の三人の娘(ベッキー、リジー、ジェニー)の遊び場所だった場所です。彼女達は自分達の遊び場をレイノルズさんに貸すかわりにお家賃として、「お話」を要求する。
このお話がすばらしい。
「こわいもの知らずの少女」「タム・リン」「チェリー」「ウィリアムの幽霊」「野うさぎと森の番人」「泉をまもるもの」「ジェムと白い服の娘」「最後のお話」

スコットランドの民話をベースにしたものなのか、妖精や幽霊、魔法などがからんだ不思議でロマンチックななお話、こういうの、大好きです!!
北原杏子さんの読書日記で「エリナー・ファージョンの『リンゴ畑のマーティン・ピピン』。ちょっと似ているような気がしました。」というのを伺っていましたが、まさに、これはファージョンの芳しい匂いです。それからデ・ラ・メアのいい匂いもするのです。

好きなのは、「泉をまもるもの」
最後に、さてさて、あの森番は本当はなにものだったのか??と疑問がそのまま残るのも好き。白いメアリも・・・
そして、あの魔物たちは何がほしかったのか?
不思議は不思議のまま、安易な理屈をつけずにふいっとお話が終わってしまうのもとてもいい。
ルーシーの元気さも好きです。

気のせいか、どのお話も、元気できりっとした少女が多くでてきて、自分の運命を自分で切り開いていこうとするのに対して
男たちは、魅惑的な腰抜けが多かったような・・・

そしてラストシーンで、去っていく旅人にベッキーは「あれは、予言みたいなものだったんでしょう。あれはわたしたちのお話だったんでしょう」と訪ねる。それに対する答えは「予言なんてできるものじゃない。未来は自分でつくっていくものさ」とそこまで。
よかった。教訓ぽくなったらどうしようか、と思った。
ベッキーもやがて旅立つ。レイノルズさんとの秋の再会を約束して。彼女も大人の道を歩み始める。
だけど、最後に「いくまえに、もう一つお話をして」とねだる。今はまだ、子どもでいられる、最後のお話。(やがて、彼女はお話を語る人になるような気がする)

「サマーズエンド」、夏の終わり。それは、子供時代のおわりでもある。
この本の原題は「サマーズエンド」なのでしょうか。それなのに邦訳だと「幽霊の恋人たち」・・・このタイトルは正直、好きじゃないです。
原題のままに、夏の終わりに始まり夏の終わりに終わる、旅立ちのとき、そして、少女の子供時代のおわり、また風景のうつろい、夏の終わりの草花の描写の美しさ・・・いろいろな意味をこめて、「サマーズエンド」というタイトルをそのままにして置いて欲しかったなあ。