『ゾウの王パパ・テンボ 』 エリック・キャンベル

「ライオンと歩いた少年」の姉妹編。

パパ・テンボ(=ゾウの父)と恐れられるゾウがいた。孤高の王。
彼は幼い頃、親と群れの仲間を密猟者たちに殺され、以来五十年、人間を憎んでいた。 どこかで群れが人間に襲われた気配を感じると、どこからか必ず現れるサバンナの勇者。その神秘的な威厳に満ちた巨大な姿。

このゾウをめぐる三つのかたまりによって物語は進行していく。
密猟者を追うマイク、ベニー、ハイラムの三人組。「ライオンと歩いた少年」に続いて彼らの掛け合いがとても楽しい。
ゾウの生態を観察し続ける研究者ジョンとそのふたりの子。ことにゾウと心を通わそうとする娘アリソン。
そして、狂気の密猟者ヴァン・デル・ヴェル。五十年前、子どもだったパパ・テンボに片足を潰されてから、密猟はパパ・テンボへの復讐の意味を持つ。

この三つの塊がある事件をきっかけに一斉に一つの方向に向かって動き出し、物語は一気にラストに向かって盛り上がっていきます。
しっかりした土台と骨組み、無駄を省いた、しかし豊かな肉付け。大船に乗ったつもりで安心して物語についていけます。

不安になるほど広くて深い大地。ゾウという存在の神秘的な気高さ。アフリカの密猟の現実。――さまざまなテーマが綾織のように物語の表面に浮かび上がってくるのです。 そして、ゾウをめぐる人間たちの感情や行動、これが、一面的ではなく、さまざまな角度から多面的に描かれています。
ただ象牙をとるためだけに一気に何十頭ものゾウを殺す密猟者たちの描写を読むと、ハイラムではなくても怒りでいっぱいになるのですが、
一方、「ゾウは害獣だ」と言い切るマサイ族の人々は、作物を荒らされ、家畜を飼う草場を荒らされ、生活を脅かされているのです。
また、ゾウに(一面)感傷的に心を寄せる娘を気遣い「野生の動物に近付きすぎてはいけない」という科学者の立場を貫こうとするジョン。(それなのに、つい本音がほろりと見え隠れするところがなんともほほえましい)

最後の章の盛り上がりは、どんな言葉も不似合いにしてしまう。
黙って静かに、目の前に差し出される場面を見ているだけ。
王と心から呼べる存在に出会えました。