『リセット 』 北村薫

「スキップ」「ターン」に続く《時と人》シリーズ。これだけを気にしながら(読めば絶対良いに決まってる、と思いながら)、なかなか読めませんでした。
よかったです。まさに、「親から子へ子から子へ伝えられる命の物語」でした。

物語は三部にわかれています。
第一部のヒロイン真澄によって語られる太平洋戦争渦中の思春期の日々。
これがたぶん物語の伏線になるのだろうと思いつつ、彼女の物語の中に引き込まれていく。
当時のちょっと裕福な女学生の日常や憧れ。そして、常に自分の人生に誠実であろうとする主人公―今の私達が忘れてしまった美しいものが眩しかった。
第二部。あら、語り手が変わった。時代はほぼ現代。新たな語り手が語る彼の小学生時代は昭和30年代半ば。
わたしが覚えている子ども時代より、少しだけ昔。覚えている風景や遊び。舞台が埼玉なので、義父母に聞かされた事件なども交錯して、とても身近に思えた。
途中から第一部の物語と微妙につながり始めて・・・もう、やめられなくなってしまった。
あの事故のくだりの痛々しさ。
一部二部となんと痛々しい幕切れだろう。

わずか20ページほどの第三部。まさか、こんなふうに今につながっていこうとは。
過去をずっとつないできて、さらに未来へ。
この明るい温かさ。繊細さ。シリーズ最後を飾るに相応しい幕の引き方だったと思います。

さらに。おまけですが。
第二部の中で、真澄が子どもの本について語るところが、私は好きでした。
「小さい子はね、余計なもの、背中にしょってない。だからまだ、本の中に入り込む魔法の切符を、捨てずに持ってるのよ。・・・」
どんなにか輝く瞳で、この言葉を語ったのだろう、と思います。

また、蛇足。
出てくる人たち、どの人に対しても嫌な感情を持つことがなかったのは、語り手である主人公たちのまっすぐさ、素直さのせいだろうか、と思います。
そして、優子さん。
彼女もまた、今どこかで、別の姿になって新しい人生を生きていたらいい、と思いました。