『脇坂副署長の長い一日』真保祐一

 

脇坂副署長の長い一日 (集英社文庫)

脇坂副署長の長い一日 (集英社文庫)

  • 作者:真保 裕一
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
 

 

賀江出警察署の脇坂副署長は、もともとたたき上げの現場の人間で、次の異動こそは現場に戻りたいと強く希望している。


その日の真夜中0時過ぎ、官舎にいる脇坂に、彼の娘から電話がかかってくる。
(なぜかこの時間に)婚家から実家に戻った彼女だったが、不自然な形跡を残して母と弟が行方不明になっていると伝えてくる。
そういわれても、官舎の彼が即座に動けるものでもない。
続けて、早めに手を打たなければ署内の不祥事に発展しそうな、厄介で奇妙な事件の情報が入る。
実は、この日は、アイドルタレントの一日署長のイベントがあり、政治家や県警本部の幹部も出席するし、ファンやマスコミも詰めかける。
なんとか秘密裡に捜査を進めて……と、すったもんだしているうちに、もう一つ、厄介な事件が勃発してしまう。
署内の派閥争いなども絡まってくるし、ぐちゃぐちゃだ。
どこから手をつけよう?


タイトルに「長い一日」とある通り、ただ一日だけの出来事なのだけれど、ほんとにまあ、なんという一日なのだろう。
毛糸の編みかけのからまったやつを渡されて、ほどいてみてくれ、と言われて、あれこれいじっているうちに、どうやら三色どりの毛糸の模様編みらしいことがわかるわけで、ジックリと時間をかけてほどかないと、だめにしちゃいそうだってこともわかってくるわけで、ところが、時間制限があるんだよ、時間厳守だよ、と詰め寄られるから、あせる。
やっと糸口がみえてきたな、と思ったら、それ、裏返しなんじゃないの、ってことも起こったり。目がまわりそうだ。


読んでいるだけで、最初から息が上がっているが、終わってみれば、走ったあとは、こんなに気分がいい。
真夜中から始まった一日の物語は、真夜中に終わるのだ。家族の安心の笑顔をぐるりと見渡しながら、ちょっと夜更かししすぎじゃありませんか、みなさん。と声をかけたくなっている。