『ドクター・ヘリオットの 生きものたちよ』 ジェイムズ・ヘリオット

ドクター・ヘリオットの生きものたちよ

ドクター・ヘリオットの生きものたちよ


日々刻々と移り変わっていくヨークシャーの自然の美しさを背景にして、円熟期を迎えたヘリオット先生の日々は、忙しくも穏やかに過ぎていく。
ヘリオット先生のお付き合いは、獣とも人とも濃密だ。
ときには気持ちが良いとはお世辞にも言えない人に出会ったり、事件が起こったりもするのだけれど、過ぎてしまえば笑い話。思えば、それもこれも生活を彩るほどよい刺激だったのかもしれない。


ファーノン先生と共同経営の診療所では、次々に若い獣医師が助手として迎えられ、それぞれの個性をいかんなく発揮して物語を提供し、やがて巣立っていく。
新米獣医師たちとのすったもんだも楽しいが、やがての別れを心から惜しみつつ、懐かしみつつ、その後、見上げるほどに成長した彼らが、生涯の大切な友となっていく過程がしみじみと美しい。


シスター・ローズの動物避難所の話はどれも心に残る。
人間の身勝手でその運命を左右される小さな生き物たちに寄せるヘリオット先生の痛みと、よるべなき動物たちに献身する人びとへの敬意と共感とがひしひしと伝わってくる。
なかでも好きなのは、足の悪い小さなテリアと里親となるループ氏の話。
「私と同じ歩き方でしょう。足まで同じってわけです」
おおらかにともに生きる相棒をむかえる人びと、そのまわりの人びとの温かい後押しがまぶしかった。


また、野育ちの山猫二頭の信頼を勝ち得るまでの奮闘に、くすくす笑ったりもするけれど、先生の忍耐強い努力に敬意を覚えている。
それは、人にも獣にも変わらない。
開かれた親しみは、希望に繋がっていく。