にぐるまひいて (再)

にぐるまひいて

にぐるまひいて


例年なら苗間(田んぼの種まき)の時期だ。じゃがいもの植え付けもそろそろだ。


家族の一年間はしずしずとまわっていく。
やるべきことだけをもくもくとやる。明日を思いわずらわない。
だけど、時にそれはとても難しい。
大きな力に揺さぶられ、自分の小ささ・非力さを蔑まれているようで、途方にくれ、不安になる・・・。


「にぐるまひいて」は絵本です。
人の生業を描いているのに、ページに添えられた文章は箇条書きに近い簡潔さ、感情を表す言葉は一切ありません。
絵の中の人物の表情も慎ましすぎるくらいに抑えられています。
そうやって、ある家族の一年間を描きます。
この少ない言葉から膨らんで聞こえてくる言葉があるし、描かれた絵の奥行きを読みこむこともできます。
だけど、気持ちが落ち着かない時には、この絵本の文章や絵のすっきりとしたそっけなさがそのままありがたい。
何も考えず、このそっけなさに甘える。
ざわざわした気持ちがいつのまにか静まってくるまで。


この本が一冊まるまる祈りなんだ。


春、夏、秋、冬、春、夏、秋、冬・・・季節は回る。
春は行き、夏になり秋になり・・・そしてぐるっとまわってきっとまた春がくる。
泣いたり笑ったり怒ったり、打ちのめされたと感じても・・・この足の下の地面は次の春につながっている。
この地面に足をつけて、太くて堅い地面との絆を感じている。

父祖はずっとこの地を耕してきた。来る年も来る年も来る年も。
思いもかけぬ困難に打ちひしがれたことも何度も何度もあっただろう。
(たとえば「…みんなで うすみどりいろのはっかキャンディを ひとつずつ なめた」みたいな)ささやかな平安を大切に分け合ったりもしただろう。
来る年も来る年も・・・
子から子に脈々と伝えられてきたそれに、わたしたちもきっと連なっている。
私の足が踏んでいるのは父祖の足が踏んでいた地面なのだ。