女海賊の島

女海賊の島 (アーサー・ランサム全集 (10))女海賊の島 (アーサー・ランサム全集 (10))
アーサー・ランサム
新宮輝夫 訳
岩波書店
★★★★


再読・・・のはずなのですが、この巻はまるっきり覚えていません。
普通忘れていても読んでいるうちに、この場面はうっすらと覚えているかも・・・となるのですが、
この本は本当にまるっきり思い出せませんでした。
最初にヤマネコ号が出てきたときに「あれ、ヤマネコ号がまた出てる」と驚いたくらいのもので・・・
ほんとうに読んだのかな。
読んでいないのかも・・・(笑)


忘れちゃった理由として、考えられるのは、この物語が子どもたちの冒険ではなかったから、と思っています。
今までのどの巻でも、大人の助けはあったにしても、最終的に何かをやりとげるのは子どもたちでした。
でも、これは、大人の冒険でした。
もっと言えば、子どもたちがいなくても、この物語はぜんぜん困らないんじゃないかな、と思ったのでした。
(じゃあ、面白くないかって言えば、決してそんなことありません!)
それから、この物語の舞台が中国(のどこか)だということ。今まで読んだシリーズとはがらりと雰囲気が違います。


ゆっくりとした物語が、竜神祭以降一気に盛り上がる感じが好きですが、
物語の筋とは別に、おもしろい、と思ったのは、イギリスの子どもたち相手に、中国人のミス・リーが教師になってラテン語の授業をするところ。
しかもイギリス人がそろいもそろって劣等生ときている。フリント船長なんて最下位だし。ロジャだけが優等生、というのも笑えます。
本物の海賊のとりこになって(ここまではよかったんだけどね)、
こともあろうにラテン語の文法と必死に格闘する羽目になったみじめなナンシーがおかしくて、
最後のクライマックス部分よりずっと楽しめました。


この物語は一体いつごろのことなんだろう、とふと思いました。
ジャンクの中でナンシーはほのかにアヘンの匂いをかいでいます。
これが出版されたのは1940年。アヘン戦争の年でした。
ということは、これが書かれたのは、南京条約下の清の時代、ということになります。
(ネットって便利です。世界史苦手なわたしでも、この場でちょちょっと検索すれば、すぐこれだけの情報が手に入るんですから)


イギリスとの不平等条約のもとの中国。そう思って読むと、魅力的なミス・リーへの思いがさらに強くなります。
ケンブリッジ大学で教育を受けた優秀な学生だったミス・リー。もっともっと学問に打ち込みたかったミス・リー。
海賊の頭目として、対立する勢力の要として、父祖の責任を負うミス・リー。
イギリスに対して、本当は思うところがあったはず。
洋の東西で、きっとどちらの場所にいても、別の居場所が恋しかったに違いないのですが、
イギリスに対してはひときわ複雑な思いがあったはずです。
彼女の最後の選択は「ああやっぱり」という安堵と、一生抱え込まなければならない孤独が思いやられて、辛いのです。
きっとどんな選択をしても辛かっただろうと思います。
でもやはり、これでいいのだ、こうすべきだったのだ、と思います。