ひみつの海

ひみつの海 (アーサー・ランサム全集 (8))ひみつの海 (アーサー・ランサム全集 (8))
アーサー・ランサム
神宮輝夫 訳
★★★★−


再読。
前作「海へ出るつもりじゃなかった」の後の、残りの夏休み。お父さんのいるピン・ミルから物語は始まります。
おとうさんの休暇。
おとうさんとおかあさんといっしょに、
ピン・ミル近辺の、たくさんの島のある内海を探検することを楽しみにしているウォーカー家の兄弟たち。
ところが、突然、休暇返上で、おとうさんは任務に就くことになってしまった。
がっかりするウォーカー兄弟に、おとうさんは、えんぴつでざっとラフに書いた簡単な地図を渡して言います。
おとうさんがロンドンへ行く前に、子どもたちを内海の島に捨て置きしていくこと。
おとうさんが迎えに来るまでに、本式の探検をして、ひみつの海と未知の島々のちゃんとした地図を自分たちの手で作ってみること。
子どもたちは大喜びします。


未踏査の土地を探検して、地図を作り上げる、それだけでわくわくするじゃないですか。
場所は内海。潮の満ち干に左右され、地形がさまざまに変化するひみつの海です。
これは島なのか陸なのか、隠された水路があるのかないのか・・・
時間、土地など、船で動ける場所、歩いて進める場所、潮の満ち干によって探検が制限されるのもスリリング。
おなじみの仲間に新しい魅力的な仲間も加わります。
これは一作目以来の素晴らしいことが起こりそうな予感!


・・・と、思っていたのですが・・・あらら、どうしたことでしょう。
大好きなシリーズだ、という前提のもとに、あえての不満を書きます。
「海へ出るつもりじゃなかった」で、父母の保護下から飛び出したはずの子どもたち(特にジョン)が、
なぜか、ちゃっかり親の懐に舞い戻っているのです。
いや、いきなり飛び出す、と言うわけにも行きませんよね。
子どもは行きつ戻りつしつつ、だんだんに自立していくものなのでしょうね。
でも・・・


それなりに楽しい冒険ではあったのですけど、なんでこんなにいらいらするのか、と言えば、あの地図、なんです。
ナンシーが、あくまでも海賊で、野蛮人と戦争したい、と望んでいるのに対して、地図の完成にこだわり続けるウォーカー兄弟(ことにジョン)。
ナンシーが感じた違和感は、読者のわたしのそれに似ています。
おとうさんの期待にこたえたい、親に認めてもらいたい、というジョンの気持ちは切ないくらい。
だけど、義務・約束が前面に出てしまえば、冒険・遊びとは全く逆の方向に向かってしまうと思うのです。
そして、わたしがこのシリーズに求めるのは、義務でも約束の完遂ではなく、
日常のしがらみすべてから開放された冒険の世界なんです。
もっともっとおもしろい話になるはずの要素がてんこ盛りのはずだったのに。


お気に入りはブリジットです。ぷくぷくした腕やほっぺのふくらみが目に浮かぶようです。
志願捕虜、とか、「行って。・・・わたし救い出してもらいたくなんてないの!」とわめくいけにえ娘とか。
言うこともやることもいちいちたまりません。
もう何をしても何を言ってもかわいくてかわいくて。
最後に鬼号のマストのてっぺんにブリジットのリボンがひるがえっているのがすてき。