サラの旅路―ヴィクトリア時代を生きたアフリカの王女 ウォルター・ディーン・マイヤーズ 宮坂宏美 訳 小峰書店 ★★★ |
著者が古書店で見つけた古い手紙一式。書き手の名はサラ・フォーブス・ボネッタ。
ヴィクトリア女王の庇護を受けたアフリカの王女であるといいます。
この手紙から、著者は、調査を開始します。
そして、ひとりの女性の数奇な運命とめぐり合うのです。
切れ切れの情報を集めて繋いで、一人の女性の人生をくっきりと浮き彫りにしていく。なんとドラマチックなことか、とその作業にわくわくしてしまいます。ノンフィクションなのです。
隣国からの侵略により5歳で目の前で両親を惨殺、捕らえられ二年に渡る幽閉。いけにえとして殺される直前に英軍艦の艦長に救助され、以後、ヴィクトリア女王の庇護のもと、英上流階級で育った女性。
この時代、英国は奴隷制度に反対し、英国には奴隷はひとりもいなかったといいます。でも、差別はやはり存在していました。
著者は誠実にサラの人生を描き出して見せてくれますが、明らかになっていないことは決してこの本に書きませんでした。潔いくらいに。
あまりにさらっとしていて、書かれていない、人々の気持ちが気になりました。
白人の中で白人の教育を受けながら、自分はアフリカ人(イギリスでたった一人の「アフリカ人」)であることをサラはどのように感じていたのか。
サラの周りの人たちはサラのことをどう見ていたのだろうか。
すごく意地悪い見方かもしれないけれど、王侯貴族たちには、体の良いペットくらいの感覚ではなかったのだろうか。
・・・それこそ想像するしかないのですが。
「居場所はない」と感じ、「押しつぶされるような孤独」のなかで書かれたサラの手紙が、胸に迫ります。
サラは生涯何不自由なく暮らし、王室貴族と交わり、友人たちとは温かい交流を続けた。
だけど、幸せだっただろうか。良き人生であっただろうか。
「居場所はない」と感じたサラ。英国女性としての教養はあっても自国の文化の一切を知らないまま、その国のプリンセスと言われて・・・
サラがかわいそうに思えて仕方がありませんでした。
✳︎
2017.11. 追記
同じ作者による『ニューヨーク145番通り』を読んでいて、この本を思い出しました。
そっけないほどにさらっと書かれていると思ったこの本だけれど、それはサラの人生への、深くて大きな敬意の故のように感じました。
『ニューヨーク145番通り』に暮らす人々の姿から、サラの旅を振り返って、そう思いました。