マチルダばあやといたずらきょうだい

マチルダばあやといたずらきょうだいマチルダばあやといたずらきょうだい
クリスティアナ・ブランド
エドワード・アーディゾーニ 挿画)
こだまともこ 訳
あすなろ書房
★★★★


ブラウン家は子沢山。
出てくる順に名前を書き出してみたら、
小さいのは、あかちゃん、チビちゃん。
それから、トーラ、スージー、デイヴィッド、シャーロット、サイモン、アントニー、ステファニー、ニコラス、カーロ・・・まだまだ、きりがないのですが、ざっと数えても20人は軽く越えています。
素朴な疑問。あのか弱くて優しいブラウン夫人、どうやってこれだけの子どもたちを?・・・出産回数だけでも気が遠くなりそうです。
これがそろいもそろって粒よりの恐ろしいいたずらっ子たちです。
どのくらいのいたずらっ子かといえば、この子たちのために雇ったばあやや家庭教師が2週間もしないうちにみんなやめてしまうくらい。「このうちにはマチルダばあやにきてもらうしかありませんわ」という捨て台詞を残して。
で、突然この家の玄関に現れたマチルダばあや。凄く醜い姿で大きな黒い杖をもって。マチルダばあやは、自分を必要とする家には、呼ばれなくてもちゃんと現れることになっています。
チルダばあやの子どもたちへの良い子になるための「おけいこ」が始まります。

半端じゃないいたずら。そして、奇想天外なマチルダばあやのおけいこ。
子どもたちのいたずらがどうしょうもないほどひどいと、なんともわくわくしてしまうのです。マチルダばあやはどんな方法でこのいたずらを子供自らの意思でやめさせるのか、と。そりゃもう楽しみ。
ばあやのおけいこはちょっとかわっています。
ちょっとした魔法なのですが、
子どもたちのいたずらをやめさえるのではなくて、さらにもっともっと徹底的にやらせる方法をとります。徹底的です。もうこのくらいで・・・という加減がないのがなんともおもしろい。

20人以上の子どもたちは、一応名前はありますが、個人個人はそんなに問題ではありません。「こどもたち」というひとかたまりの個性として描かれます。それでいいのです。読者が肩入れしたくなるのはなんといっても「子ども」ではなくてマチルダばあやのほうだから。
でも、子どもたちが軽く描かれている、というわけではないのです。
ゆるがない愛情で包み込むおかあさん。
そして、マチルダばあやは子どもたちを決して傷つけないし、なんといっても自分の意思でいたずらをやめえる方向に向けさせるわけですもの。
そして、チビちゃんの描写のなんともいえないかわいらしさ。

おもしろかったのはアデレイデおばさんの話。この一家に圧倒的な権力を持つこの大おばさんが、子どもたちのひとりを自分の養女として帰りに連れて行くと宣言したとき。
アデレイデおばさんも、ブラウン夫妻も、子どもたちも、そして、読者も、みんなみんなが納得できて、大満足できる結果に収めてくれたことがとてもうれしい。

最初、「メアリー・ポピンズ」を思いました。
でも、このおはなしはもっとずーっとどたばたしていて、結構過激でした。(このお話は、良い子になるための教訓話ではありません。)
訳者あとがきによれば、作者クリスティアナ・ブランドと挿画のエドワード・アーディゾーニはいとこ同士とのこと。そして、二人とも子どものころ、彼らの祖父母からマチルダばあやのお話を聞いて育ったのだそうです。
とても幸せな家族の秘密をそっと耳打ちされたような嬉しい気持ちになりました。