『リンゴ畑のマーティン・ピピン (上・下)』   エリナー・ファージョン

恋人から引き離されて井戸屋形に閉じ込められた少女ジリアンを6人の少女が見張っている。6個の鍵を持って。
旅の歌い手マーティン・ピピンは、娘たちの前で、6夜、美しく幻想的な6つの恋物語を話す。話と引き換えに彼女たちの持っている鍵を受け取る。
これは、井戸屋形の鍵であると同時に固く閉ざされた少女たちの心の扉の鍵。

6つの恋物語は、独特の雰囲気。幻想的、寓話的、童話的、牧歌的、詩的、戯曲的、なによりもファージョン的。
石井桃子の文が美しい。(この人は、自身の創作より、翻訳のほうが断然優れている、と思う)
どの話も美しいけれど、わたしは、第1話「王様の納屋」が一番好き。
納屋の入り口の戸に金ぐつを打ち付けるところが好き。最後に、「晩ごはんができました」で、待っていた晩御飯がいい。

でも、この話の本当の仕掛けは、最後の十ページほどの中にある。
目次に書かれていない7つめの物語が始まる。
隠れていたものが、舞台の中央に上がる。
これを粋だと思うか、いっぱい食わされた、と思うか…(この部分がもしなかったら…それも困るんだけど…うーん、ずるいよ)