『そして誰もいなくなった』 アガサ・クリスティー

 

 

デヴォン州の海岸沖にある小島「兵隊島」の豪奢な邸宅に、正体不明の主から招待(雇用)された10人の客と使用人は、実は、過去に重い罪を犯している。それにも関わらず法で裁かれることがなかった。(できなかった)
島での初日の夕食後、どこからか流れてきたのは、十人それぞれの罪状を読み上げる声だった。
そして、まるで断罪のように、一人、一人、姿の見えない殺人者に殺されていく。
「十人の小さな兵隊さん」というわらべ歌通りの殺され方、ダイニングテーブルの上に置かれた十人の兵隊さん人形(一つ、ふたつ、と減っていく)という道具立てなど、ぞくぞくする雰囲気をもりあげる。


殺人者はどこにいるのか。いいや、島には、招かれた10人以外、人の気配はないのだ。
そうだとするなら、十人の中に、犯人が混ざっているということか。
さて、犯人は誰なのか。
非情にも着々と登場人物が減ってくるので、最後には犯人が残るはずなのだ。
本当に?


この暗く、押しつぶされるような雰囲気。
緊迫感、疑心暗鬼。
だれも信用できない孤独感のなかで、それぞれがそれぞれらしいやり方で自分自身の過去と向かいあうのだ。罪悪感、後悔、開き直り、言い訳……小出しの心模様が、現実に進行している殺人事件と混ざり合って、雰囲気を盛り上げる。


赤川次郎さんの解説の「これほど人が次々に死んで行くのに、少しも残酷さや陰惨な印象を与えない」に頷いている。
むごい物語を読んだはずなのに、読後のすっきりしたあと味は、他のクリスティーの作品にも言えて、だから、こんなミステリをもっと読みたいと思うのだ。