『ゾウとともだちになったきっちゃん』 入江尚子/あべ弘士

 

 

きっちゃんとお父さんは、よく動物園にいく。きっちゃんの好きなゾウに会うためだ。
ゾウの鼻の穴が立てる音。仲間の気持ちを鎮めるために、相手の口の中にそっと自分の鼻を入れる様子。砂を集めて体にかけるところ。
こういうことみんな、ちゃんと見ていなければ気がつかないよね。わたしには、きっちゃんに教えてもらって、初めて知ったことばかり。


きっちゃんは、ことに15歳のメスゾウのチャンポムの事が気になる。「チャンポム」と名前を呼ぶ。「チャンポム。チャンポム。チャンポム。」
きっちゃんはチャンポムと友だちになりたい。
……もしかしたらチャンポムもそう思ってくれているんじゃないかと思うのだけれど……


人、ゾウ、それからほかの動物でも。
そのありようはみんなちがっている。言葉も違うし、気持ちの表し方も違うから、なかなか伝わらないこともある。いつのまにか、つたわらなくて当たり前、あるいはこのへんが限界、といい加減なところであきらめてしまう。
きっちゃんは、あきらめない。だって、ゾウが好きだから。大好きで、ゾウのことをよく知りたいと思うから。
此方の思いを伝えようと思う前に、相手のありようを、そのまま理解したいと思うことがきっと大事なことなんだと、ゾウに心寄せるきっちゃんを見ていて思う。
だから、あのページの「ブルブルブル」に、感動してしまう。普通は気がつかないよね、と思うくらいの、とっても小さな空気のゆれに。
でも、ずっと気にかけていたなら、その微かさが、ほかの何よりもはっきりと感じ取れるときがあるのだろう。
読んでいるこちらも、思わず息をつめてしまう。


人でもゾウでも、ほかの動物でも、きっとそうなんだと思う。だけど、やっぱりゾウ。とりわけてゾウ。これはきっちゃんとゾウのお話だ。
気持ちが通った、と感じる瞬間は、こんなにも嬉しい。