『獄中からの手紙―― ゾフィー・リープクネヒトへ』 ローザ・ルクセンブルク


ローザ・ルクセンブルクは1904年以降、幾度も投獄されながらも、ドイツ社会民主主義陣営の政治理論家、革命家として活躍した。
ことに第一次世界大戦が始まってからは、反戦活動に力を注ぎ、そのために長い獄中生活を強いられた。
戦争遂行のための挙国一致態勢をめざすドイツ帝国政府がなんとしても沈黙させておかなければならない危険分子として。


ゾフィー・リープクネヒトは、国会議員カール・リープクネヒト(ローザの盟友で、やはり反戦活動を貫き、そのために投獄された)の妻である。
ここに集められているのは、獄中の最後の二年間に、ローザが、若い友人ゾフィーに書き送った手紙である。


ローザの手紙は、それが監獄で書かれたものとは思えないほどに瑞々しい。
若い友人へのいたわりと、熱心な療養の勧めはいつも。それから、読んだ本の話などを朗らかに綴る。
自然の移り変わりのスケッチや、木々や鳥たちを愛を込めて描写するくだりなど、これが監獄で書かれたことを思わず忘れてしまうほどだ。
まるで、少し長めのバカンスを楽しんでいるようにさえ感じる。


検閲と監視の厳しさ、そして相手に心配をかけまいとの配慮があったのだろうとしても・・・
ことに彼女の書く自然描写の美しさに、たとえば、刑務所の高い塀のむこうにわずかに見える木々の梢が揺れる様の描写に、読んでいる私までも、慰められてしまう。
心躍るのは鳥たちの描写。
カラスの鳴き声が、昼間の「クラー」から、夕方の「カウカウ」に変わり、それを「小さな金属の玉の鳴る音」のように聞き、

>そして、たくさんのカラスが代わるがわるこの「カウ――カウ」を喉から転がすように発していると、まるでみんなで小さな金属の玉を投げあって遊んでいて、その玉が空中で弧を描いて飛び交っているようなのです

など、読んでいると、まるで美しい絵本を見ているような嬉しさがこみ上げてくるのだ。


しかし、長き渡る獄中生活は、もともと病弱だった彼女を病み衰えさせ、黒髪を白髪に変えてしまったという。(瞳だけは輝いていた)
獄中生活の過酷さに、いまさらながらに、ぞっとするのだ。外では社会が勢いを上げて絶望的な方向に突っ走っていくのをただ手をこまねいて見ているだけ、何もできない、何も働くことのできない苦しみはどんなであっただろう。
それだけに、これら美しい手紙の束が、どれほどの精神力から産み出されたものであるか、と想像する。ただかけがえなく思う。

>あなたはお訊ねですね、「どうしたら善良になれるのか」、心のうちに住む「下劣な悪魔」をどうやって黙らせるのか、と。ゾニチュカ、わたしが知っている手は一つきり、快活さと人生の美しさを結び付ける、あのやり方しかありませんよ。美しいものは、目と耳の使い方さえ理解すれば、どこにいようとかならずわたしたちの周囲にある。そして腹立たしいこと、くだらぬことすべてを高く越え出て、内面の均衡をつくりだしてくれるのです……