『フランドルの四季暦』 マリ・ゲヴェルス

フランドルの四季暦

フランドルの四季暦


ベルギー、フランドル地方の野である。庭である。菜園である。
一月、二月、三月・・・十二月。
空の色が変わる、風が変わる。野も水辺も様相を変え、そのときどきに誇らかに栄華を詠う植物や鳥たちの姿が文章に写しとられる。
とはいえ、あくまでも散文的。これは科学の本ではない。
そして、野の景観の一部のように、自然に寄り添って暮らす人間たちの姿もまたスケッチされる。暖炉の熱を測る体温計や、教会の鐘楼が燃え落ちた理由など。


わたしはフランドルの四季を味わいながら、同時に、私の暮らす場所の十二カ月を思い浮かべている。
遠い隣々県の山なみまで見えるようなきんと晴れた一月の空。
初めての雪に、吠えたり、ぱくついたりする子犬。
重たい雪の下から、健気に顔を出す花壇の草花。
八百屋で買ったキャベツの葉についていた青虫を葉ごと飼育箱に移す。冬を越したサナギがモンシロチョウに羽化するのを息をつめて見守った春の朝。
一年中いるおなじみの鳥。夏に来る鳥・冬に来る鳥をその季節の初めに見たり、声を聞いたりしたときの嬉しさ。
真新しいランドセルや、おろしたての制服が眩しい春の日。
夏の昼下がり、運転中の道路の先にきらきらした逃げ水を見ること。
・・・


『灯火節』(片山廣子)でとりあげられていたケルトの暦の美しいフレーズも思いだした。
「一月 靈はまだ目がさめぬ
 二月 虹を織る
 三月 雨の中に微笑する
 四月 白と緑の衣を着る
 ・・・」


絵本『ぐりとぐらの1ねんかん』も思いだす。
毎年忘れずにめぐりくる十二カ月は、なんと愛おしくて、わくわくすることだろう。


丁寧に淹れたお茶をゆっくりと味わうように、ゆっくりと味わう本である。
この本は、
「覚えている限りでは最も遠い過去に始まり、一九三八年に書き上げたこの本を、私は一生かけて書き継いでいくことになるでしょう」
という言葉で締めくくられる。
四季の暦を綴ることは終わらないのだ。
そして、フランドル地方の四季を、味わいつつ、自分自身の四季をいつのまにか頭の中で綴り始めた私の暦もきっときっと・・・