『ん』 長田弘/山村浩二

ん (講談社の創作絵本)

ん (講談社の創作絵本)


「ん」
変な文字なのよね。
ひらがななのに、五十音表のどの段にもどの行にも属さない。おまけな場所にいて、なんだか居心地悪そうに見える。
そう、おまけ。発音してみれば、あるのかないのかわからないくらいささやかな半音程度。とても独り立ちできるような音ではない。
日本語の言葉には、(知っている限り)「ん」で始まる言葉はない。
「ん」の文字が入る言葉はちょっとばかり砕けた感じがする。
乱暴な話、「ん」なんかなくても、困らない。「ん」なんかなくても、わたしたち、やっていけるんじゃないか・・・


そんなときに、この本を、声を出して読んでみる。
声を出して読むのが、きっと大事。
「ん」が愛おしくなる。

言葉や文章、会話の中に「ん」が混ざると、そこだけ空気が和らぐような気がしないか。ほっと息をついて、頬がゆるむのを感じないか。
「ん」。なくても困らないかもしれない。でも、やっぱり困る。
意味あるものや、役に立つものだけが大事にされる世界は、殺伐としているんじゃないか、と危ぶむ。
・・・「ん」がない世界で、暮らすのは嫌だな、と思い始める。
小さな「ん」
居心地の悪そうな「ん」
「ん」のなかに籠っているうるおいは、呼吸のようにさりげない。
さりげないけれど、なくなって初めて気が付くかもしれない。息苦しいって。


五十音のどこにも居場所がない「ん」
「ん」がある日本語が好きだと思う。
ずっとずっと、「ん」のある国で暮らしたい、と思う。