ドクター・ヘリオットの猫物語/犬物語

ドクター・ヘリオットの猫物語

ドクター・ヘリオットの猫物語

ドクター・ヘリオットの犬物語

ドクター・ヘリオットの犬物語


大型家畜を相手にすることの多かった獣医ヘリオット先生のもともとの志は、犬と猫の医者になることだったのだそうです。
『ドクター・ヘリオットの猫物語』『犬物語』、これら二冊の本は、ヘリオット先生のこれまでの作品から、猫・犬についてのそれぞれ10のエピソードを選りすぐってまとめたものとのことです。

>これがほんもののヨークシャーだ。美しい石灰岩の石垣が丘陵を這いのぼり、小道が密生するヒースの色鮮やかな緑を掻き分けて延びる景色。薫風に顔を撫でられながら歩いていると、この広い荒涼とした丘陵地の中にたったひとりでいることが、いつもながらちょっとした驚きだ。見渡す限り動くものもなく、紫の花が何マイルにもわたって咲き誇り、翠の芝草も遠くかすんだ青空に混じりあうまで広がっている。
(『ドクター・ヘリオットのヘリオットの犬物語』より)
まずはこの風景ありきなのだ。
犬物語の犬たちも、猫物語の猫たちも、この風景の中に気持ちよく溶け込んでいる。
ヨークシャーの犬たち・猫たちの表情豊かなこと。彼らがうらやましくてたまらなくなる。
そして、その傍らにいる人間たちもまたいきいきと愛らしくて、現代の日本に住むわたしなんかよりも心豊かに暮らしているのではないか、とこれもまた羨ましい。
少し昔の、のどかな時代なのだ。
大型家畜のみならず、小さな犬や猫の健康診断まで、獣医が往診していた時代だったのだ。


『犬物語』はぜんぶ好き。でも、ことに印象に残るのは、車と競走する犬、乳母車の犬、一度だけ吠えた犬の話。それから、トリッキー・ウーの生活を笑いながら、実はその豪勢な食卓がうらやましかった。
猫物語』では、二匹の山猫に手を焼くヘリオット先生が微笑ましかった。お菓子屋の猫、燈心草の中で見つかった猫、ボールを拾ってくる猫の話が、心に残ります。
ヘリオット先生の名医ぶりに驚いたり、思わぬ展開にあっけにとられたり、思わず噴き出したり、ほろりとしたり、周りに沁みていく不思議な効果にしみじみと感動したり・・・


動物と人間と、どちらがより動物的(?)だろう、人間的(?)だろう、と物語を読みながら何度も思った。
ヘリオット先生の動物たちへの愛情、動物の傍らにいる人々への共感に、胸が熱くなる。
そして、それを裏打ちするのは、先生の自然への畏敬の心だろう。
「自然の治癒力。それが働き出すと、どんな獣医でも太刀打ちできない力ですよ」とへリオット先生は言います。
動物たちは、健気に生きる。そして、時には人間たちには思いもよらないことをやってのけてみせてくれる。奇跡は、ヘリオット先生のまわりでは何度でも起こるのだ。
日々、動物たちが元気でいることが、人間たちをどんなに勇気づけてくれていることだろう。