ふたつの月の物語

ふたつの月の物語

ふたつの月の物語



1.十四年前の、四月生まれの子どもであること。
1.両親及び血縁者がひとりもいない、あるいは所在が不明であること。
1.出生場所、出生時の状況が不明であること。
1.ただし出生につながる手掛かりを有していて、その手掛かりはなんらかのかたちで月に関係していること。

これは、津田老婦人が、里子を迎えるにあたっての条件である。
この不思議な四つの条件をクリアして、夏休みを津田家の別荘で過ごすためにやってきたのが美月(みづき)と月明(あかり)
性格も育った場所も環境も全く違う二人が、初めて顔を合わせたとき、なぜか互いを知っているように感じた。
まるっきり違うはずの二人には、常人にはない(言えない)共通点があった。
そして、二人は互いに惹かれあいながら、なぜ自分たちが惹かれあうのか、なぜここに二人いるのか、
そもそも、津田老婦人が示す里子の条件には、どんな意味があるのか、探り始める。


気にかかるのは・・・
14年前にダムに沈んだ独特の文化を持つ村のこと。
不思議な伝承や信仰など。そして、この閉ざされた地形。
二人の不思議な力のこと。
何かを隠している津田夫人と関係者たち。


ね。知りたくて知りたくてたまらなくなるでしょ。いったいどんな秘密が隠されているのだろうって。
読み手の期待を裏切らない(というか、すごく思わせぶりな)手掛かりをふんだんに散りばめ、物語はぐいぐいと進んでいきます。
だから、こちらはもう、何も考えずにひたすらついていくだけなのです。


この物語には独特の湿った匂いがあります。
暗くて湿っていて、静かな悲しみが満ちているような気配がある。
老婦人の悲しみとやるせない願い。
ダムに飲み込まれてしまった村に咲いていた桜など・・・
自然の摂理の厳しさの内で決して取り戻すことのできないものの悲しみがこの物語を静かに覆っているのです。


そして、二人の少女は、生まれてすぐに捨てられた孤児です。
自分が何者で、どこから来て、どうしてここに存在しているのか、まるっきりわからないこと。
そして、この世のどこにも自分の血縁者(同じ「匂い」を持った者)がいない、ということが、
深い孤独とよりどころのない不安を呼び起こし、読んでると、時に堪らなくなります。


それでいながら、それらに囚われて暗くなりすぎることはなく、むしろ一つ一つのシーンは印象的な美しさです。
二人の少女が互いの名を呼びあったときは、わけもわからずほっとしました。
二人の若いエネルギーは、これから始まる、白紙の未来を期待させてくれる。
物語はスピーディで、不思議に満ちた冒険の連続です。


わたしは、二人の少女とミステリアスな不思議な旅をしてきた。そしてやっとここに辿り着いたはずだった。
だけど、読み終えて知ったことは、全てが終わったここから始まるということだった。
私には見える。
(すでに読み手は知っている、いや、ほんとは彼らもみんな知っている)「答え」をあの子たちは必ず見つけ出すはずなのだ。
見つけ出さないはずがない。その過程も、その後も、様々なシーンが様々な形で、手に取るように見える。
どのシーンを思い浮かべても、心ときめかずにいられない。そして、その場にいられない自分がちょっと悔しい、と思う。