The Casual Vacancy

The Casual Vacancy

The Casual Vacancy


Pagfordは、イギリスの田舎町。とても狭いコミュニティに感じられた。町じゅうみんな知り合い、噂は筒抜けという。
この町の教区評議会(Pagford parish council=地方議会)の議員であるBarry Fairbrotherが急死します。
町全体に彼の欠員による影響が波紋となって広がって行く――
タイトル「The Casual Vacancy」は一時的欠員。Barryの死によってできた評議会の欠員のことです。
この欠員をめぐる狂想曲か?と思ったのですが…


ハリー・ポッター』の作者ローリングさんの新作です。(ファンタジーではありません。)
日本では12月1日に翻訳本が刊行されるそうですが、それに先駆けて原書を読んでみよう、という試み、
読書コミュニティ『本が好き!』主催のソーシャル読書会に参加しました。
みんなで同じ本を読む、励まし合って進めていく、という読み方のおかげで、
日常、英語とは縁のない環境で暮らすわたしでも、無理なく楽しみながら最後まで読み終えることができました。
(ただし、内容の読みとりについてはおおいに不安がある。いずれ読む邦訳本では、まず、自分の読みの「間違いさがし」です)
こういう機会を与えてくださったスタッフの方々(御本までいただきました)ほんとうにありがとうございました。
そして、このたびご一緒できた皆さんにも、お世話になりました。
解らない語句や、理解できない言い回し、慣習など、その場で教えていただいたりもして、嬉しかったです。ありがとうございました。


どういう内容なのか、どういう傾向の物語なのか、ということもまるっきり知らずに、手に取った本です。
そのため、非常にとまどいました。
読んでも読んでも物語の方向性がまるで見えてこないのです。
こういう物語なのではないか、と思って読んでいると、やがて新たな側面が見えてくる。さらに読み進めると、また違った面が…と言う感じ。
そして、(皆さん言われていましたが)とにかく登場人物が多いのです!
その登場人物たちが、読み進めるごとに…どんどん印象が変わってくるのです。
最初、おぼろげに見えていたものが、だんだん目鼻立ちがはっきりしてきたな、と思った頃、その印象は他愛なくひっくり返されます。
そして、新しい印象になじんだころ、またひっくり返される。
その繰り返し・・・
この本のおもしろさの「ひとつ」は、そういう印象の変化にあると思います。(変化しつつ深まる)
長いです。なかなか物語が進まないような気がします。でも…でも…最後まで読みきるべき物語だと思います。
(本当はね、ラストに触れて、あれこれ言いたいことはあるのですが、今、ネタばらしするわけにいかないのが苦しい。)


登場するのはこの町のさまざまな階層の大人たち――大人の群像は階級社会の縮図でもありそうです。
そして、その子どもたち――おもに同学年(16歳)の群像です。
感じるのは、大人たちの愚かしさと、子どもたちの火傷しそうなヒリヒリ感。
愚かな大人たち、と一言で言っても、彼ら、ほんとうにさまざまな背景を持ち、それぞれみんな違う。
彼らのことを知るにつれ、今ここでこうしている理由を知るにつれ、一概に批判できなくなるのだけれど、
だけど、周囲の人間、ことに子どもたちに影響を及ぼし、深刻な影を投げかけるとなると、黙ってもいられないのです。
どはいえ、まったく手も足も出ないのが歯痒く思えてなりませんでした。


同僚同士、友人同士、夫婦間、親子間、兄弟間…繋がり合えるべき関係が、誤解や無理解、諦めなどで閉ざされて、
大人・子ども問わず自分のことで精いっぱい。
孤独のなかで日々をなんとか凌いでいる、そんな印象の群像です。
大人の物語でしたが、子どもの物語でもありました。
わたしは子どもたちを追い掛けて読んでいた。
そして、子どもたちに寄り添えば寄り添うほど、透けて見えてくるのはどうしても大人たちの姿でした。


読み終えてみれば、心に残るのは16歳たちのさまざまな場面のスナップです。
重たい場面がたくさんあったのに、そう、曇天つづきのなかに、さっと射した日の光のように弾ける彼らの顔、
それも仲間たちとともに夢中で「今」を生き切っている顔、顔、顔が、心に残るのです。
彼らの明日がどうか輝かしいものであるように、と祈らずにはいられない。
きっとあの子もあの子も大丈夫。それぞれの道をそれぞれの歩き方でしっかり歩いていく。
そして、今の大人たちをあっというまに越える。すでに越えている。


町にはゴーストがいます(もちろん本物のゴーストではありません。ファンタジーではないです^^)
ゴーストは、ある日突然現れて、人々を震撼させるのです。
でも、もしかしたら、この町に、そして、人々の中に、ゴーストはずっとずっと住んでいたのかもしれない。
見えなかったものが見えるようになっただけかもしれない。
ゴーストは、ゴーストをもっとも恐れている人によって、見えるところに送り出されたとも言えるかもしれない。
(ゴーストの声は、ゴーストになるしかなかった者の「わたしを助けて」という悲鳴にも聞こえた)


イギリスの架空の町の話かもしれないが、一方で自分の町、自分たち家族の物語かもしれません。
誰もがよく知っている人なのに、本当の姿は誰も知らない。自分の姿さえ知らない。見ようともしない。
読みながら、少しずつ、この町の地図が頭の中に出来上がっていきます。
その地図はこれから先、変化していきます。
これからの地図を作るのが、あの子たちなのですよね。