ノリー・ライアンの歌

ノリー・ライアンの歌

ノリー・ライアンの歌

  • 作者: パトリシア・ライリーギフ,Patricia Reilly Giff,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: さえら書房
  • 発売日: 2003/02/01
  • メディア: 単行本
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飢饉、といえば、『ビリー・ジョーの大地』をちらっと思いだしたけれど、
これは、イギリスに支配されていたころのアイルランドの物語で、
飢饉の恐ろしさよりも、イギリスの地主の冷酷さのほうが印象に残りました。
著者あとがきによれば、著者の家族のルーツの物語(このルーツを探す旅の話、興味深いです)がもとになっているとのことですが、
このあとがきの中にも書かれていました。
八百万人いたアイルランド人のうち、百万人が飢えと病気でなくなっているというのに、イギリスは、飢饉に無関心だったこと。
そればかりか、人口の二倍もの人びとをやしなえるだけの食料が、アイルランドにはあったというのに、
情け容赦なくイギリスへ運び去ったと言います。


たくさんの絶望した人びとがこのとき、アメリカを目指したそうです。
すぐ隣のイギリスではなくて、アメリカ。その旅の途上で多くの人が命を落としてもなおアメリカへ。
アメリカは、ノリーたちにとって、まるでパラダイスのように見える。
でも、ほんとうはそんなにうまくいくわけない。
旅に伴う困難、それを幸運に乗り越えても、待っている生活は決して楽なはずがない。
でも、それは、書かれるとしたら別の物語になるのだろう。
先祖から受け継ぎ、繰り返す困難を乗り越えて守ってきた人びとが、それでもその土地を捨てるとき、
彼らの胸にあるのは、希望や憧れだけのはずがない。そう思うと、胸が締め付けられるような気がする。


これでもかこれでもか、と次々に主人公ノリーの家族、その周りの人びとを苦しみが襲います。
ことに、飢饉の訪れを告げるのが「匂い」であるという不気味さ。
そのあとは怒涛だった。じわりじわり、というのではなくて、一気に落ちていく、その描写のリアルさ。
そして、これでもかとばかりに襲いかかるのは、領主の非情な仕打ちでした。
重苦しい物語です。なのに、夢中で読み切ってしまう。
力強くぐいぐいと引っ張られるに任せて。
力強い・・・けれども、その力はたぶん、怒りの力ではないのだと思う。
彼らを生かしている不屈の力は、もっと澄んだものです。
文字も書けない、読めない主人公のノリーですが、その歌声の美しさは類ないといいます。
物語のあちらこちらに散りばめられているのは、生活に密着した神話や妖精物語のかけら。
ノリーの記憶を彩るのは、父や母の明るい笑い顔。家族のいたわり。
そして、苦しい飢えと絶望を一時忘れて、気候とともに移り変わっていく風景の美しさに、息を飲む。
海から霧が上がってきて、雨が降る。さあっと吹く風がその霧をいっぺんに払いのけると、陽の光に、大地が輝き渡るのです。
アイルランドの人びとの命は、土から瑞々しく生まれ出てくるようでした。