八月の暑さのなかで

八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)八月の暑さのなかで――ホラー短編集
金原瑞人 編訳
岩波少年文庫


ホラーという言葉から思い浮かべるのは、グロテスクで後味が悪くて、
何よりも文章や物語の味わいなどは二の次で、読者の背中をじとっと冷たい手で撫ぜることができれば大成功――
そういうのがホラーだと思っていました。だから、わたしはホラーが苦手、と決めつけていました。


・・・へえー、これもホラーなんだ・・・
この短編集、ホラーというからにはもちろんぞくっとするし、怖い思いをさせられるのですが、
後に残るのは、いやあな感じじゃないのです。
うーん、いいもの読んだな、洒落たニクイ話だったな、とあとから振り返ることができる、
なんというか「上質」な味わいのある短編集なのでした。


ホラー好きな金原瑞人さんが、
「ただ怖いだけじゃだめ。まずおもしろくなくちゃ。そして『こんな話、読んだことがない!』と思っちゃうくらいの驚きがなくちゃいけない(ただし、血や内臓が飛び散ったりする派手なホラーはいれない)」
という条件で英語圏の古今の作品から50篇を厳選し、そこから、さらにあまり長くないもの30篇にしぼり、
最終的に編集さんがそこから13篇選び出したのが、このホラー短編集なのだそうです。


わたし、ホラー作品で、もう一度読みたい作品や、大好き、と思う作品、
余韻をゆっくりかみしめたい作品に出会うことがあるなんて、夢にも思いませんでした。


「谷の幽霊」の静かに響く言葉は、いつまでも心に残ります。まるで詩のようです。
夕方の薄闇の中から、何かが呼んでいるような気がします。
「顔」にこもる不思議で味わい深い余韻は、デ・ラ・メアの幻想的な雰囲気を思い出し、これも好きです。
「ハリー」は、怖いです。怖いけど、あまりにせつなく美しい物語で、なんともいえませんでした。
そうして、一番好きなのは「開け放たれた窓」。
さんざん怖がらせてくれたくせに、この後味のよさ(?)ったら。なんとこじゃれたユーモアでしょう。
このお話は覚えて、「ねえ、怖い話してよ」と言われたら、すらりと語ってみたくなります。


この本好き。ホラー苦手、の看板、半分だけ(用心深いでしょ)降ろします。
あとから「いい本読んだなあ、また読みたいなあ」と思えるものなら分野関係なし。
面白い本は大好き。