ライトニングが消える日

ライトニングが消える日ライトニングが消える日
ジャン・マーク
三辺律子
パロル舎
★★★


都会から、ひなびた田舎の家に越してきたアンドルー少年とその家族。のんびりとした田園風景の中、頭上を掠めるようにして飛ぶ飛行機の轟音に驚かされます。
それは、近くの空軍基地から飛び立ったものでした。
まもなくアンドルーが仲良くなったビクターという隣(といっても、一軒家同士なのでちょっと離れている)に住む少年。
彼は文字を読むことも書くことも苦手だけれど、飛行機に対してはほとんど恋焦がれるような情熱を傾けている。容姿も言動も風変わりだけれど、彼のせつないような優しさや彼なりの知恵が、読むごとに際立ってきます。

夏休み、わずか一ヶ月かそこらの物語。
あっけにとられるほど何もありません。
互いの家の行き来、空軍の飛行場に飛行機を見に行く日々。
ありがちな思春期の複雑な人間関係や心の葛藤はほとんどなく、ひたすらに二人の少年の毎日(少しずつ互いを知り親しくなっていくゆっくりとしたその過程)が描かれているだけです。

ビクターもアンドルーも特別な少年ではありません。
スポーツが特別にできるとかできないとか、めだった何かを持っているとかもっていないとか、そんなこともないのです。
異常なほどの潔癖症の母親のいるビクター、何事も大雑把な過程で育ったアンドルー。ふたりとも目立つ子供ではありません。クラスの中で「その他大勢」の中に埋もれてしまうような彼ら。

なのに、なぜこの物語がこんなに面白い、と思ったのでしょうか。
何事も事件が起こらない。淡々とした日々。
それでも、この静かな日々の中で、
ゆっくりと、互いが、互いのなかにある寂しさやえらさに気がついていく。そして、それを大切にしようと思い始める。
大人の理不尽さ・・・子供には到底太刀打ちできず、ただ折れるしかない理不尽さに、せめて、「これが理不尽だということなのだ」と気づくこと。
互いの中に隠された寂しさや寛容さ。せつなさ。気づいていながら、相手を傷つけたかもしれないと感じたり、その埋め合わせをする方法はないか、と考えたり・・・
そんなことがとても静かにさりげなく(決して声高になることなく)描かれています。この二人の互いへの思いや思慕・・・やがて大きな友情へと育っていくのだろうと予見させてくれます。

彼らの会話。
ぽんぽんと流れるように進む会話を読むのは楽しい。その会話文のなかに、いろいろな思いの片鱗が見て取れるように思います。
静かな日々ですが、この小さくちりばめられた片鱗が、どこかでおおきくふくらんで、もしかしたらいつか爆発するのかもしれない、もしかしたら光り輝くのかもしれない。そう思います。
普通の男の子たちの、決して大げさに現れることの無い静かな感情の流れがある、そんな日常の物語に、心からこの二人が愛しい、と思えるのです。