ユゴーの不思議な発明

ユゴーの不思議な発明ユゴーの不思議な発明
ブライアン・セルズニック
金原瑞人 訳
アスペクト
★★★★


総ページ数541ページ、この厚さ。
黒い枠に覆われたモノトーンの鉛筆画がページいっぱいに現れます。ページを繰るたびに絵の奥へ奥へと、読者は案内されます。時に流れるように、あるときはまるで洪水のようにスピードを持って。ときには静かにゆっくりと対象の奥深くへと導かれて・・・
そして、ときどき、思い出したように文字のページが現れるのです。絵の流れを意識して文字で断ち切るように。

これはなんだろう。絵本?
まず、この本の表現手段に度肝を抜かれました。こんな本はみたことがありません。この本のこと、噂には聞いていたけれど・・・なるほど、です。

そして、中身は、といえば・・・パリ駅の構内の秘密の部屋。ねじを巻かれることを待っているたくさんの駅の大時計たち。いつか何かを語るであろう壊れたからくり人形。なぞめいたおもちゃ屋の老人と少女。
不思議な絵。映画の一場面。うしなわれた色鮮やかな夢。
この黒々としたページにふさわしい、まるで夢の世界の物語のような・・・この雰囲気。ちょっと昔のパリの裏町のにおい。そして、そこにまざる秘密めいた不思議なかおり。
さまざまなことが繋がっていく過程の面白さ、、不思議がほぐれていく面白さ。
所々に隠されたあっと驚く仕掛け。
何もかもなくした少年が、何もかも手にいれる幸福。

主人公ユゴーが少女イザベラとともに大時計の裏側からパリの街を眺める場面が好きです。
そして、二人のせりふも。
  >まるで街全体が星でできてるみたい。
  >・・・世界ってひとつの巨大な機械だと思うと楽しくなるんだ。
   機械にはひとつとしていらない部品はない。
   ・・・もし世界が巨大な機械なら、僕も何か理由があってここにいるに違いない・・・

・・・映画を見ているような、それも飛び切り幸福な、ちょっと古い画面のサイレント映画を見ているような物語、すっかり堪能しました。
そして、「終わり」の表記のあと、巻末の「感謝の言葉」のしかけがまたびっくり。
いたんだ、ほんとに。でもどこまで・・・
まさかここまで来て、ビックリ箱に出会うとは思いませんでした。

さらにそのあとの「訳者あとがき」に、うんうんとうなづきつつ、ここにちょっとだけ転記♪
  >いままでこんな本があっただろうか!
   160枚近いイラストのなかに、物語がちりばめられている。
   まるで映画のフィルムのコマを並べたような絵が続くかと思うと、
   街の風景や、大時計の裏側が出てきたり、文章が数ページ続くかと思うと、
   また絵が出てきて、今度は数行のページが現れたり・・・
   この流れとリズムがとても楽しい。
   そして、何より、ストーリーが素晴らしい。

そうなのです。ストーリーが素晴らしい。
ただただ表現手段が奇抜、というだけの本ではありませんでした。
仕掛けに度肝を抜かれておしまいでは決してないのです。中身がぎゅっと詰まった541ページでした。