『 五月の鷹 』  アン・ローレンス

アーサー王の甥、ガヴェイン(五月の鷹とはガウェインのこと)は、霧にまかれ、グリムという男の館に一夜の宿を求めた。ガヴェインはグリムの奸計にはまり、グリムの娘グト゛ルーンに手をかけたという身に覚えのない罪をきせられてしまう。
ガヴェインはアーサー王の面前で、父親を恐れるグドルーンによって告発されたが、無実を立証できず、窮地に陥る。
オークニー一族の総領ガヴェインが処刑された場合、一族はアーサー王と袂を分かつに違いない。実はそれがグリムの狙いであり、アーサー王政権を壊滅させるために、騎士達を分裂させようというのだ。
例え甥であろうとも(いや、甥だからこそ)、王は公正に裁きをする。そのためガヴェインは、試練に耐えて潔白であることを証明する『神聖裁判』にかけられる。試練の内容はグリムの出した謎を解くこと期限は一年後。ガヴェインは答えを求めて旅に出る。

この始まりには民話や昔話のわくわくが詰まっています。
ガヴェイン卿は、武芸に秀で、礼儀正しくて女性にクール、膝を打ちたくなるような美男子。ほんとうにお利口さん。ちょっと出来すぎ?いえいえ、御伽話の王子さまはこれくらいでないと♪
そして、王さまの宮廷。新年の宴たけなわというときに娘を従えて現れる魔法使い然とした悪党。謎かけ。
そして野に下っていく騎士。
これだけで、物語に魅了されるに充分。
訳者のあとがきに「作者自身が楽しんで――ほとんど遊び心といってもいい感覚で――、書いたもののように思われてなりません」とあるように、ほんとにいろいろな魅力がたっぷり散りばめられた物語。
旅の騎士のであう光景は作者から読者への謎かけかしら、と思うものがあり、
ひたすらに美しいケルトの妖精譚を思わせる描写があり、
アーサー王伝説(知らないものが多くて残念、訳者あとがき参照)をアレンジした世界あり、
思い切り堪能させていただきました。

昔話らしき形をとりながら、やはり、登場人物の心は現代人であり、作者のフェミニズムを強く感じさせるのも、今まで読んだロレンスさんの作品に共通するものがありました。
オークニーの女性たちの手ごわさは伝説に基づくものなのか、ロレンスさんのアレンジなのかはわかりませんが、ある意味怖ろしく、また魅力的でした。
修道院に身を置き白魔術を操るガウェインの妹フローレイは、医者になりたいという。
ウルフィン伯爵の娘(なぜか名前が出てこない)が言ったように、女性は「贈り物の包みかなんかのように、『たしなみのよさ』とか『評判』というばかげたリボンで結ばれて、家族から家族へ手渡される」ような時代に、この自立心。そしてそのためには修道女になるしかなかったことなど、心に残った。


おもしろく読んだが、アーサー王伝説に詳しかったらもっと楽しめたのではないかと思いました。