『ハリスおばさんモスクワへ行く』 ポール・ギャリコ 

ハリスおばさんシリーズ4作目。これがシリーズ最後の本です。

日雇いお手伝いのハリスおばさんが、掃除中のロックウッド氏の部屋でみつけたのは、美しい娘さんの写真。何故か悲しそうな目をしてる。
この女性はロックウッドさんの恋人。遠くソ連の観光局に働くひとでした。
(この本が書かれたのは1974年。ロシアはソ連であり、冷戦時代でありました)
ロックウッドさんは、ソ連に旅行中、ソ連に反感を持っている作家にインタビューしたため、国外追放になり、その後、恋人とは連絡がとれなくなってしまったのでした。
さあ、こうなると、なんとかしてあげたくなってしまうのが、われらのハリスおばさん。うまい具合に間違えて、清掃組合ユニオン主催のパーティーのくじで、「モスクワ旅行にペアでご招待」をひきあててしまったではないか。どうする、バターフィールドおばさん? ・・・ペアだって。

冷戦まっただなかのソ連。さまざまな憶測とびかう怖ろしき社会主義国。・・・当時のイギリス人にとってソ連って、こんなふうなのかしら。ひたすら胡散臭い、怖ろしくて、嫌な国。何を考えているのかわからない得体の知れない不気味な国。ちらっと映画ロッキー4を思い出す。敵意むんむん。

ロックウッド氏から恋人リズへの手紙を隠して、先を心配して悲観して生きた心地のしないバターフィールドおばさんを伴ってモスクワにおりたったハリスおばさんを待っていたのは、KGBの魔の手。なんと、ふたりのおばさんはスパイ容疑がかけられていていたのです。
KGBは、おばさんたちの尻尾を捕まえて投獄しようと待ち構えていたのでした。尾行、変装した諜報員、部屋じゅうに仕掛けられた盗聴器。そして罠。

KGB。こわーいはずのKGBが、なぜかかなりのドジ。盗聴器を仕掛けても、故障してたり、その故障を直す技術士がいなかったり。勝手におばさんのビザを読み間違えて、いい加減な情報に踊らされたり。
いいように茶化されて、・・・トイレットペーパーのくだりはおかしすぎます。ソ連を思いっきり揶揄しまくってます。
やりすぎですよね。今となっては。
(パリもニューヨークもここモスクワもこんなふうに皮肉られ茶化されて・・・)

 

さて、とにかく八方ふさがり。周りじゅう敵だらけ、スパイだらけ。めげずにおばさん、リズ嬢を連れてソ連を出国し、無事恋人の手に渡してあげることを諦めません。

 不可能を可能にする夢。みんなを幸せにする魔法。ロンドンの通いのお手伝いさん。時給いくらのお手伝いさん。つましく暮らして、カラーテレビがほしいけど、映りの悪い白黒テレビでがまんしている。週に何回か、親友のバターフィールドおばさんとお茶を飲みながらの噂話が生活の潤い。
そんなひとりのおばさんが、なぜに、つぎつぎと夢をかなえてしまうのか。

  >ねえ、リズあきらめちゃだめだよ。
   わたしの経験からして、なにがなんでもこれがほしいとなったら、
   がんばりさえすれば、かならず手に入るものなんだから。
   なんとか方法をみつけますよ、わたしゃ。

って、つまりそういうことなんだと思います。しかも自分のことより、いつもだれかのために一生懸命。ついつい、助けてあげたくなってしまうのですね。いろいろな人たちが。
・・・そして、どたばたの果てに、おばさんは、今度もまた夢をかなえることになります。
それだけではなく、バターフィールドおばさんの年来の夢の毛皮のコートと、自分のカラーテレビも、はからずも手に入れることになるのでした。
いいねえ。めでたしめでたし。